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母、自ら人質たるを望む
「そうか。プトレマイオス王はたいそう喜んだか」
「はい。母親とお子は、我が母、我が息子とも思い大切にしようと仰せになられました」
復命する使者の顔にも笑みがあった。
「そうか。これで安堵したわ」
クレオメネスの愁眉は晴れた。
が、最大の難関が残っている。
そう。彼は、まだ、このことを母に言い出せずにいた。
しかし、悠長にはしていられない。王の言葉として、エジプト王に約束したのだ。
(なによりも、北方の情勢が躊躇を許さぬ)
その夜、クレオメネスは意を決し、母クラテシクレイアの屋敷を訪れた。
「おお、これは王様、どうしたのです。突然いらして」
「母の顔を拝したいと思いまして」
「それは嬉しいことを申されるの」
スパルタ王国太后にある彼女も、人の母親には違いない。息子の言葉を喜んだ。
ために、贅を尽くした御馳走を卓上一杯に並べさせた。
クレオメネスは苦笑した。なぜならば、それは、彼が市民に呼びかけ、推奨する粗食とはあまりにかけ離れたものだったからだ。
「母上、私が、このような馳走に舌鼓を打っては、市民のそしりを受けましょう」
王は苦情を述べたが、母は聞くどころではなかった。
「何を申すのです。閣下はギリシア世界を駆け回る身。栄養をたんととらねば、勇猛な敵とどう格闘するというのです。つべこべ申さず、たくさん召し上がれ」
革命の理念より息子の体が大事、それはあまりに簡単な母の論理であった。
やむを得ない。王は、料理に手をつけた。
しばらく世間話に花を咲かせていたが、
「ときに、母上」と切り出した。
「なんです」
「旅行したくはありませぬか」
「なんです唐突に」
「いえ。ならば、母上の気も大いに晴れやかになろうかと思いまして」
ついこの前まで、クラテシクレイアは、夫メギストヌスの死を悼み、悲痛の底にあった。もともと、この息子クレオメネスの強い勧めによるもので、政略結婚にも似たものだったが、いつの間にか、すっかり仲睦まじい夫婦となっていたのだ。
「お気遣いはありがたいが…」
母は穏やかな笑みを見せた。
「今の私の願いは、このラケダイモンの土となって最期を終えたい、それだけです。初めの夫レオニダス殿、そしてメギストヌス殿、いずれもこの地に眠っておりますゆえなあ」
母は、しみじみといった。
それは、人間元来の素朴な願いであったろう。
「さ、左様でございますか」
クレオメネスはうつむいた。
そう。彼は旅行にかこつけて、エジプト行きを説得しようと思ったのだ。
「どうしたのですか?」
母は不思議そうな目をした。
「あ、いや、何でもありませぬ。母上のお言葉が心に沁みたのでございます」
「ほほほ。今日のそなた、何かおかしいの」
「そ、そのようなことはありますまい。日々国事に励んでおるのです。疲れが出たのやも知れませぬ」
「おう、そうか。ならばもっと料理を出さねば」
「あ、いや、もう結構です。充分いただきました」
「何をいう、王が疲れていては民が不安となる。これもお務めと思い食べるのじゃ」
そういって、彼女は召使を呼んで、さらに料理を運ばせた。
が、王の食事の手はなかなか進まなかった。彼は、その夜、ついにエジプト行きを切り出すことはできなかった。
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過去にもクレオメネスの政治の関係でうまくいったからいいような
ものの政略結婚したり、いろいろ犠牲になっている母ですね。
再び、犠牲になる話を持ち出しにくいんですね。
2010/11/4(木) 午後 2:13
そうですよね。
結婚をネタに同志を集め、
今度は同盟国を作る訳ですから。
さすがに切り出しにくいですよね。
2010/11/5(金) 午前 9:38