新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 <これまでのあらすじ>
 9.26掲載の「エウロペとカドモス−カドメイアの章1」の冒頭をご覧ください。

 沈思の人カロン
 テバイの政権を握る指導者は、アルキアス、レオンティデス、フィリッポスらの一派である。アルキアスが最高行政官、レオンティデスが大将軍、フィリッポスは騎兵長官と、要職を彼ら親スパルタ派が独占していた。
 市民は、権力をほしいままにする彼らを苦々しく思い、スパルタ軍の占領する聖地アクロポリスを、屈辱をもって眺めていた。
 アルキアス政権の横暴、スパルタの支配に、不満を抱いていた市民の一人に、カロンという人物がいた。年齢は40歳がらみであろうか。党派を問わず市民の信望厚く、アルキアス一派もうかつに手の出せない存在であった。
「あれから三年か…」
 カロンは、にがにがと思い出していた。

 今から三年前の紀元前382年夏。
 この頃、テバイでは、イスメニアスを指導者とする反スパルタ派、アルキアスを指導者とする親スパルタ派が激しく対立していた。表向きはスパルタを支持するか否かの対立であったが、多分に権力闘争の側面も強かった。つまり、親スパルタ派は、スパルタの支持をてこに政権を奪おうとしていたのだ。
 スパルタの勢力が絶頂にあった当時、対立が昂じ、テバイは内乱の危機に瀕していた。
 折しも、その頃、スパルタの将軍フォイビダス率いる大軍がテバイ領内を通過していた。当時、スパルタは、反旗を翻した北方の大国オリュントスを猛然と攻め立てていたが、なかなか陥落しなかったため、援軍として派遣されたものであった。
 アルキアス一派のレオンティデスは、これを権力奪取の好機と捉え、スパルタ軍の陣に密使を送り、フォイビダス将軍を説いた。
「今、我らにお味方していただければ、あなた方の友である我々がテバイを治めることができます。つまり、貴国は有力な同盟国を獲得することができるわけです。さらに、閣下は一国を一夜にて平定することになるのです。これは武将として大いなる名誉ではありますまいか」
 この申し入れに、はじめ、フォイビダスは戸惑いを見せた。というのも、彼は、スパルタ政府から命じられて、オリュントス包囲中の味方の援軍に駆けつける一指揮官に過ぎないからだ。勝手に軍を別の場所に動かしていいわけがない。
 先を急ぐ身のフォイビダスであったが、次第に心を動かされ始めていた。
(このような機会は滅多に巡ってくるものではない…)
そう。テバイはボイオティア地方の大国。一夜にて平定すれば、その勇名はたちまち天下に轟くことになるからだ。
「ふむ。しかし、テバイは要害と聞く。そんなに簡単に攻略できるのか?」
「ご安心あれ。我らが手引きいたします」
(テバイは、近年、ことあるごとにわが国に反抗し悩ましておる。これを平定することは大いなる功業。ラケダイモンの人々も喜ぶであろう)
「よろしい、軍をテバイに進めよう」
 フォイビダスは、そう決断すると、密かに軍勢をテバイの街に向けた。
 その日、カドメイアの丘の一角にあるアクロポリスでは、豊穣の神デメテルを祀る女だけの祭典の真っ最中であった。この祭典には、男は参加することはおろか近寄ることも許されなかった。つまり、街の人々は全く油断していた。
 その夜、突如、城内にスパルタの大軍が突入してきた。
「わあ、スパルタ軍だ!」
「スパルタ軍が攻め込んできたぞ!」
 街中たちまち大混乱となり、アゴラもスパルタの兵馬に蹂躙され、女たちで一杯のアクロポリスにもスパルタ兵が乱入した。女たちは悲鳴を上げて逃げ惑った。
 スパルタ軍は、テバイ全市を一夜にて制圧したのであった。
 
 騒然とする中、カドメイアの一角の評議会議場では、スパルタの侵略に対応するため緊急の会議が開かれていた。集まっていたのは、イスメニアスやアンドロクレイデスなどの反スパルタ派の人々だ。
 そこに武装したアルキアスら、親スパルタ派勢力がどやどやと押し入ってきた。議長のイスメニアスは憤然と咎めた。
「この振る舞いはなにごとか!アルキアス!」
「我らは、スパルタ国家と同盟してテバイの繁栄の道を選択した。反逆者を逮捕する」
「反逆者とは誰のことぞ!」
「お前だ。お前を逮捕して、スパルタ国家と共に新たなテバイを我々は築く」
 イスメニアスは、怒りで身を震わせた。
「この愚か者めが!国を売って何の繁栄か!」
 アルキアスはそれに答えず、鼻で笑った。
「こいつを逮捕しろ!」
 こうしてイスメニアスは逮捕された。
 議場は、怒号と罵倒が渦巻いたが、アルキアス派の兵は反対派議員を悉く逮捕し、その声を押し潰した。
 カロンは、議員としてその場に居合わせた。彼は、反スパルタ派に属していたわけではなかったが、イスメニアスとは親しく交わっていた。そのため憤然として、縄をかけられるイスメニアスの許に駆け寄ったが、そのイスメニアスがカロンを制止して囁いた。
「こらえられよ。貴殿は、このテバイの行く末をしっかり見届けて欲しい」
 彼は、拳を握り締め、イスメニアスが縄にかけられて連行するのを、立ち尽して見ていた。街では、スパルタ軍とアルキアス一派の凱歌が響き渡っていた。
 権力を掌握したアルキアス一派は、反スパルタ派の有力者を次々と逮捕した。この時、エパミノンダスとペロピダスたちは、テバイを脱出しアテネに亡命した。逮捕された反スパルタ派の巨頭イスメニアスは、スパルタに連行され処刑されてしまった。
 それから三年。密告が奨励され、政府に不満を表した者は容赦なく粛清された。
恐怖政治である。市民は沈黙した。

 カロンは時を待った。今は、強大なスパルタに抗しえない。従って、アルキアスの暴挙を見ているしかない。しかし、いつかは、と心に刻んで、何気ないふりをして過ごすことに決めていた。
 アルキアス一派は、市民の歓心を得るため、人望の厚い彼を要職につけようとしたが、カロンはその申出を断り、病気を理由に一切の公職を辞していた。
 カロンは、日々、読書をして、人とほとんど会わずに過ごした。
 今も、アイスキュロス作『オレステイア』を読んでいた。
 オレステイアとは、ギリシアとトロイアの対決を描いた『イリアス』の後日譚である。
 ギリシアの総大将アガメムノンは、宿敵トロイアに勝利するため長女を神への犠牲に捧げた。そのため神々の力を得て勝利することができたが、凱旋後娘を殺した夫を恨んだ妻に殺された。悲劇は続き、子のエレクトラとオレステスの姉弟が、母を父の敵(かたき)として討ちとった。
 そこまで読み進むと、彼は本を閉じた。陰鬱になる。
父の敵を討って義を果たし、されど、母を殺すという不義を犯してしまった姉弟。
(人は、義を果たすため、ときに不義を犯さねばならんのか…)
 その時、部屋の扉が叩かれ、彼の思考は中断された。
「ご主人様。来客です」
「む…誰だ?」
「はい。アルキアス殿の秘書官フェイリダス殿です」
「フェイリダスか…」
 カロンの眉間に皺がよる。
アルキアス一派だ。会いたくない。しかも、フェイリダスは、エパミノンダスから大恩を受けながらアルキアス一派に寝返った不埒者。見るのも嫌だった。
「私は病気だ。そういって、お帰りいただきなさい」
 が、執事は退出しなかった。
「どうした」
「旦那様は必ずそうおっしゃるであろうから、この書付を見せよと申されまして…」
「なんだと?」
 執事から受け取った書付をぱらっと広げると、いたって簡単な文面が現れた。
『この者にお会い頂きたい。エパミノンダス』
 まぎれもないエパミノンダスの手跡。
 これが何を意味するのか。カロンの頭脳の中で、違和感のあった、ばらばらの事実が一つにつながっていく。
カロンは目を見開いた。その表情は一変していた。
「すぐに、お通ししなさい」
 言葉遣いも変わっていた。
 
 間もなく、あの・・フェイリダスが通された。
「病中にもかかわらず、ご引見くださいまして感謝いたします」
フェイリダスが、しかつめらしく型どおりの挨拶をすると、カロンは苦笑した。
「そう皮肉を申すな。病気ということにしなければ、煩(うるさ)くてかなわないから、そういっているだけ。君が見抜いているとおり健康そのものだ」といって、ぽんと胸を叩いた。
「で、今日は何の用かな?」
「は。エパミノンダス殿の使者として参ったと申せば、おおよその用件はご推察していただけるものか、と」
 エパミノンダスは、アルキアスやレオンティデスの独裁政治に反対してアテネに亡命している。彼らが企図しているのは、祖国テバイの解放と独立。カロンにその仕事を手伝えという意味であることは明らかだ。
「ふむ。おおよそは、な。が、具体的に何をせよというのか?」
「実は、計画は出来上がってございます。年の暮れには、エパミノンダス殿やペロピダス殿が、このテバイに潜入いたします」
 フェイリダス、何の疑いもなく計画をすらすら話し出した。
 その無用心さにカロンは苦笑した。
「どうやら重大な話のようだが…。私をそんなに信用してよいのかね?」
「もちろん」
「なぜかね?」
 問われたフェイリダス、にこりとした。
「カロン殿は、私がアルキアスの秘書官として参ったのならば決して会おうとなさらなかったこと。それは、閣下が今のテバイに憂いを抱いている何よりの証拠。それと、もう一つ決定的な理由があります」
「何かね?」
「あのエパミノンダスが、閣下のことを信用しておるからでございます」
 カロンの瞳が、これ以上ないほど大きく見開かれた。
 男が男に信用される、それも相手が自分の認める男であれば、それは大きな喜び。カロンは大きな感動に襲われた。
 が、彼は、慎重にそれが面に出ないよう心のうちにしまいこんだ。彼の性格である。
「そうか。いたみいる。そこまで信用されているのならば、私も腹蔵なく話を聞かねばなるまい。いかにも、私は、テバイの現状を憂う者。祖国の独立と尊厳を回復するためならば命を惜しむ者ではない」
 フェイリダス、大きく頷いた。そして、
「実は…」と計画の詳細を話し始めた。

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今日は家でROMってますwwww
いよいよ動き出しますね〜

2008/7/1(火) 午後 8:46 らんらん

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そうです。ここから動き出します

2008/7/1(火) 午後 9:52 Dragon


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