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ハンニバルの決意(続き)
「されど…本国は我らの行動を咎めませんか?」
マゴーネは当然の懸念を口にした。
イベリアで半ば自立しているとはいえ、バルカ家のイベリア支配の正当性は、カルタゴ本国の法的承認の下にある。その本国政府は、バルカ党が掌握していたが、もう一方のハンノン党も隠然たる勢力を維持しており、彼らは親ローマ派だ。
党首ハンノンは、常々、ローマとの友好維持を訴えていた。
「ハンノン如き何する者ぞ。そんなことに拘泥していては何も出来ぬぞ」
ハシュドゥルバルは、再び苛立ちを露わにした。
彼は、父ハミルカルと対立したハンノンを徹頭徹尾毛嫌いしていた。父がカルタゴにあった頃、彼は乳飲み子に過ぎなかったが、父に仕えた人々から間接的に聞き知ることで、一層嫌悪感を増幅させていたのだ。
「いや、ハンノンはともかく、我がバルカ家の縁戚にあたるジスコーネ殿がおられる」
マゴーネがいった。
ハンノン党の一員とはいえ、その毛並みはまるで違うジスコーネ。その彼は、東方遊学中の頃より、ハンニバル兄弟に平和をしきりに説いていた。父を傭兵の乱で無残な形で失っている彼の言葉は重く、兄弟の心にずしりと響いた。
「ジスコーネ殿は、我らの行動に反対するに違いありませぬ」
「であろうな…」
ハンニバルは頷いた。
彼が、決起するにあたり、最も気にかけていたのは、ジスコーネその人であった。
(あの御仁を説得できなければ、国論をまとめることは難しいかも知れぬ)
彼が、弟ハシュドゥルバルがこれまで再三強硬に主張した、サグントゥム介入の進言に対し首を肯んじなかったのは、彼の存在があった。
「事ここに至ってはやむをえぬ」
ハンニバルは言った。
ジスコーネら、良識ある人々の説得を後回しにせざるを得ない、そういうことだ。
「サグントゥムにおいて、それを見せるしかあるまい」
「見せる?どういうことで」
ハシュドゥルバルが訊いた。
「戦うしかないということを。その道しかあり得ないことを、本国の人々に知らしめるよりほかない」
「…と申しますと。何か工夫を?」
マゴーネが訊いた。
「攻め寄せてもすぐには落とさぬ」
「え?」「は?」
二人の弟は目を点にした。
「当然、ローマは抗議してくるであろう。本国では賛否両論の意見が出るであろう。その沸点に達した時に、城を攻め潰す。無論、大いなる戦果と共に」
「どうなりますので?」
「心が決まるのだ」
ハンニバルは、サグントゥム攻囲の間に、カルタゴ・ローマ両国に、戦いの覚悟を固めさせること、そのために長期戦に持ち込む気なのだ。
ハンニバルは、穏やかな口調ながら、ずしと言葉を吐きだした。
「兵に令せよ。余自らサグントゥムへ出陣する」
ついに断が下された。
それは、サグントゥムへの宣戦を意味するだけのものではない。地中海の覇者ローマとの闘争を宣言するものであった。
「はっ」「ははっ」
ハシュドゥルバルとマゴーネは命を畏むと、駆けだした。
ハンニバルは空を睨んだ。
(ジスコーネ殿…貴殿の意に沿わぬやも知れぬ。…が、これがカルタゴ国家にとって最善の途。この新たな戦いに勝利すれば、地中海世界の平和が実現されよう)
直ちに、総勢五万の兵が動員され、ハンニバルは馬上の人となるや、火の勢いでサグントゥムに攻め込んだのであった。
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