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決別
ジスコーネを乗せた馬車は、バルカ宮殿を後にした。
車上のジスコーネ、ずっと瞑目していた。
(余の言葉は、バルカ家の誰にも届いていなかった…)
彼はいいようのない無力感に苛まれていた。
バルカ家の暴走を防ぐため、彼は、ハンニバルの東方遊学に同行し、日々平和の大切さを切々と説いた。バルカ家の信を得るため、ハンニバルのイベリア総督位継承にも尽力した。姉エリッサを弟マゴーネに嫁がせ縁戚ともなった。さらに、本国政府にあって、バルカ党の動きを監視し、副官アドヘルバルをイベリアに潜入させ、今、自らバルカ家を訪れ、意見しようとまでした。
(その全てが無駄に終わった…)
徒労に終わったのだ。
彼には、はっきり見えていた。長い長い戦いが再び始まることを。
否応なく、カルタゴ本国も、その大戦に巻き込まれるであろうことを。
宿舎に帰ったジスコーネ、包み隠さず、全てをプブリウスに伝えた。
「余の力不足により、かかる結末に相成った。申し訳ないこと」
「いや…」
プブリウスは首を振った。
ジスコーネを責める気持ちなどには全くなれなかった。
「閣下は、我らローマ人に、誠実とは何たるかを見せて下さいました。結末がどうあれ、閣下の御努力を忘れるものではありません。のう、アッティクス」
「はい」
執事アッティクスも大きく頷いていた。
彼は、この旅で、ジスコーネの人となりを知り、大いに感銘を受けていたのだ。
「私を含めローマ人の多くが抱くカルタゴ人に対する偏見が、いかに見当違いなものか、理解するに至りましてございます」
二人の真摯な応答に、ジスコーネは救われた表情となった。
「そうか。そう申してくれると、少しは苦労した甲斐があったかの」
と、同時にやり切れぬ思いもふつふつとわき上がってくる。
(異国の、しかも、かつて敵対したローマ人の子が余の苦衷を理解してくれているというに…。なぜ我がカルタゴの者どもは、余の心を理解してくれぬのか)
事が破綻寸前となっている今、憤懣にも似た激情が体内を渦巻いた。
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