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<これまでのあらすじ>
9.26掲載の「エウロペとカドモス−カドメイアの章1」の冒頭をご覧ください。
討ち入り
その夜、カロン率いる一隊はアルキアス邸に、ペロピダス率いる一隊はレオンティデス邸に向かって出動した。
が、事態の推移は、再び微妙な綾を見せた。アテネのカブリアス将軍の副官を務めるアルキアスから、密書がアルキアスに届けられたのだ。
前にも述べたとおり二人は縁戚関係にあり、互いに情報をやりとりしていた。アテネのアルキアスは、アテネの動向や亡命者の動きを知らせ、テバイのアルキアスは、スパルタの動向を知らせていた。
そのテバイのアルキアスは、宴の最中に宴席を外し、別室で、そのアテネのアルキアスの密使を迎えた。
「おう、ご苦労である。アルキアスは元気にやっておるか?」
彼の方が目上であるから、この物言いは礼を失していない。
「はい。おかげさまで、いたって壮健にございます」
「それは結構。して、今日は何用かな?」
「はい。主人アルキアスは、閣下に大至急この書状を御覧頂くように、と」
といって、密使は書状をアルキアスに渡した。
そばで立ち会っていたフェイリダス、顔色を蒼白にさせていた。胸騒ぎがする。
(かかる時に密書が届くとは…)
が、アルキアス、大して関心を示さず、
「ふーむ。読むのは面倒じゃな。何が書いてあるのか?」と訊いた。
既にかなり酩酊しており、書面に目を通すのが億劫でたまらなかったのだ。
「いえ、内容は存じ上げませぬ。ただ、至急閣下に御覧いただくようにと申し付けられただけで」
「至急か…」
しばらく書面の表面を撫でていたが、突然、
「ハハハハハ」と哄笑しだした。
「今のわしが急がねばならぬことは、美しい踊り子の顔を見て酒を呑むことだった」
その言葉に、使者は唖然とした。
この瞬間、アルキアスの命運は尽きた。
アルキアスは、その肥満した図体を持て余すように立ち上がると、
「フェイリダス、代わりに読んでおいてくれ。ご使者を充分に労わってな」といった
「ははっ!」
フェイリダスは、密使に金を握らせて送り出すと、急いで書面を広げた。そこには、彼の恐れたとおりの文面が認められていた。
『貴殿らを討たんとして、亡命者どもがテバイに向かった。くれぐれもご用心あれ』
フェイリダスは、文面を確認すると、びりびりに引き裂いて灯火に投じた。そして、大きく息を吐いた。
(天は我らに味方したようだ)
彼は、急いで屋敷の入り口に向かった。最後の仕事が残っていたからだ。
暗闇に向かって合図すると、それに応じて、するすると十数人の黒い影が現れ、屋敷の中に吸い込まれていった。
宴席には、主人のアルキアス、そして彼に従う要人たちが勢揃いしていた。
そこにフェイリダスが、謹厳な面持ちで現れた。
「閣下、アテネから踊り子たちが参りました」
「おお、待ちかねたぞ」
とそこに、フェイリダスに案内されて、美しい衣を身にまとい、薄いベールを被った踊り子が三人、楽器を演奏する従者が数人現れた。
踊り子は、楚々とした足取りで、宴席の中央に進んだ。
「まずは、こちらに参って酌をしてくれ」
アルキアスの、その言葉が合図であった。
踊り子たちは、衣とベールをばっと放り投げた。
現れたのは、メロン、デモクレイデス、イスメニアス。
「これは!」
アルキアスは仰天した。
従者に扮していた兵が、楽器に仕込んでいた剣をさっと差し出した。
三人は、その剣をぐっと掴むと、
「売国奴、アルキアス覚悟!」と猛然と突進した。
あまりの急変にアルキアスは完全に度を失った。
「防げ!防げ!」と左右の者に命じ、自身は転げるように逃げ出した。
アルキアスのそばの腹心たちが、慌てて、彼を庇おうとするが、既に彼らも主人同様に酩酊しており足腰が定まらない。猛勇を誇る三人の敵ではなかった。
「どけっ!」
メロンの剣が一閃すると、たちまち彼らは朱に染まって倒れた。鮮血を浴びたメロンの形相は凄まじいものとなった。
宴席は、メロンたちとアルキアス一派との激闘となり、たちまち修羅場と化した。メロン隊は僅か十五人に過ぎなかったが、鎧に身を包み決死の覚悟で討ち入ってきた者たち。これに対し、アルキアスとその側近は平服で、しかも酩酊していた。気構えに格段の相違があった。ために、アルキアス一派は次々と討たれていった。
独裁政権の首脳の一人フィリッポスも、デモクレイデスに追い掛け回されていた。
アルキアスは、配下の者を楯にしてメロンの矛先をかわし、その場から逃げ出した。
「待てい!アルキアスっ!」
「ひいい」
追いすがるメロンに、ようやく駆けつけたアルキアスの衛兵が立ちふさがった。
「邪魔するな!」
メロンは、アルキアスの衛兵と激しく打合い、火花を散らせた。
アルキアスは、一人逃れて、奥の部屋に入った。その部屋の壁には秘密の逃げ道が用意されている。彼は、その部屋の壁を押すと、その通路に入った。
壁を元通りにすると、彼は、ようやく人心地ついた。
(フン。我らには三千の兵がある。カドメイアの砦には千のスパルタ兵が控えている。謀反人どもを一人残さず、血祭に挙げてくれるわ)
暗闇の中、ぜいぜい這うように歩いた。ところが、誰もいないはずの通路に人影がある。
アルキアスはぎょっとした。慌てて剣を抜き、
「誰だ!」と誰何した。
「仮にも一国の指導者にまでなられたお方。最期は潔くなされよ」
その人影は落ち着いて答えた。
「あっ、貴様はカロン!」
カロンが抜刀して悠然と立っていた。
ここで待伏せしていたのは、フェイリダスの内報に基づくことはいうまでもない。
最期を悟ったアルキアスは半狂乱となった。
「うぬ、謀反人め!裏切り者め!」とわめいて斬りかかった。
「黙れ!汝こそ、国を売り権力を盗んだ国賊。潔く我が刃を受けよ!」
カロンの剣がうなりをあげて襲い掛かる。
辛うじて一合は防いだアルキアスだが、肥満の体をもてあましている上に、泥酔しているのだ。しかも、カロンは重武装している。優劣は明白であった。
「国賊、覚悟!」
カロンは一刀両断した。
血に染まったアルキアスは、どうっと仰向けに倒れた。
「国賊アルキアスを討ちとったぞっ!」
カロンは雄叫びを上げた。
それとほぼ同時に
「国賊フィリッポスを討ったぞ!」と遠くからメロンの声が響いてきた。
親スパルタ派政権の司令部ともいうべきアルキアス邸は、こうしてカロンたちにより瞬く間に制圧されたのであった。
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まず二人....
2008/7/10(木) 午後 7:08
時間との戦いですよー。夜が明けたら勝ち目はありません
2008/7/11(金) 午前 7:35