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ピュロスとの対決12−悪い風
紀元前275年春。
タラスに戻ったピュロスは、再びローマとの戦いに向け闘志を燃やしていた。
「情勢はどうなっている」
「はい。陛下の留守中、サムニウム人が度々ローマと交戦するも、悉く打ち破られてしまい、人々の意気は阻喪しております」
「…して、ローマ軍の動きはどうだ」
「はい。一軍はカプア近辺に留まり、一軍はルカニアまで南下し、このタラスを窺っております」
ローマは、ピュロスの来援を知って臆するどころか、
「今度こそピュロスを叩きのめす好機ぞ」と雪辱の意気に燃えていた。
執政官ルキウス・コルネリウス・レントゥルスに二個軍団(一万余)を与えてルカニアに派遣し、その地の平定と併せ兵を集める任務を与えた。もう一人の執政官マニウス・クリウス・デンタトゥスを、マルウェントゥム(現ベネヴェント)近郊に駐屯させ、後方を警戒させていた。
「なるほど」
ピュロスは目を光らせた。
「余の攻め寄せる地点が決まったぞ、キネアス」
戦略にかけては、ずば抜けた勘の働く彼。ローマ軍の急所を見出したようだ。
ピュロスは、一軍をルカニアのレントゥルス率いるローマ軍に向かわせ、自身はマルウェントゥムに進んだ。
「キネアスよ。『マルウェントゥム』とはいかなる意味か」
王は、馬に揺られながら、ふと疑問に思ったことを訊いた。
「はい。現地の言葉で『悪い風』を意味するとのこと」
「…なるほど。それは吉兆」
「なにゆえでございます?」
「これはローマ軍が我らに敗北する予兆ぞ。彼らにとって、我らの到来が悪い風になることを暗示しているに相違ない」
ピュロスは喜んだ。
何分、予言やら迷信の横行していた時代。ギリシア・ローマ世界の軍隊は、神官や占い師を帯同するのが常であった。指揮官たる者は、兵の迷信を踏まえ、戦意を上げるための工夫を施さなければならなかった。
到着すると、ピュロスは、敵がマルウェントゥムの南に広がる山を背に布陣しているのを見た。前には森が広がっている。このまま衝突すれば、ピュロス得意の機動力は生かせず、ローマ得意の重装歩兵による戦いということになる。
「ふむ。良い布陣だ」
「いかがなされます」
キネアスが訊いた。
「向こうの山の尾根を見よ」
「木がまばらにございますな」
「そうだ。あそこまで象部隊を移動させることができれば我が軍の勝利だ」
ピュロスは、奇襲攻撃を考え付いたようだった。
(敵も我が軍の象の恐ろしさは骨髄に徹して知ったであろう。となると、前方には、当然その備えがある筈)
ヘラクレア、アウスクルムで連勝したとはいえ、歩兵同士の戦いでは押され気味だ。
(象軍がなければどうなったことやら…)
二度の勝利は、いずれも薄氷を踏むが如きものであったのだ。
王は、今回も象軍の活用が勝敗を分けると判断したのだ。確かに、背後から象軍に襲われれば、さしものローマ兵も慌てるに違いなかった。
「なるほど。敵は大混乱いたしますな」
「レオンナトスに、象十頭と兵三千をもって山を占領せよと命じよ」
ピュロスは、象二十頭のうち半数を奇襲部隊に割いた。
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