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ハンノンの演説
二人が議場に戻ると、早くも怒号が飛び交っていた。
「この売国奴め!」
バルカ党が罵りに、ハンノン党も負けずに言い返す。
「国家を危地に追いやる者のどこが愛国なのか!」
なかには席を離れ襟髪掴み合い、乱闘に及ぶ者もいた。
「静まれ!」「静粛にいたせ!」
ボミルカルとジスコーネは両者を引き離し、懸命になだめた。
が、人の良い貴族ボミルカルに鎮める力なく、ジスコーネは若年と侮られ、皆、見向きもしない。
その時。
「いい加減にいたせ!ここは、神聖なるカルタゴ元老院の議事堂であるぞ!」
一喝したのは大ハンノン。
この元老院の主の如き彼の一声で、ようやく落ち着きを取り戻していった。
「それでは、早速採決に入ります」
議長席に戻ったボミルカルは、伏し目がちに議事再開を宣した。彼とすれば、自派を裏切る形となる厄介事、すぐに片付けたかったものであろう。
「待たれよ!」
怒気を含んだ声で制止したのは、バルカ党の青年貴族ヒミルコ。
「まずは、議案の当否を審議すべきだ!それもなしに採決など暴挙であろうぞ!」
議長のボミルカルは、その語気に気押され、顔をこわばらせた。そして、縋るようにジスコーネの方を見ると、その彼は小さく頷いた。
ジスコーネは、隣に座る大ハンノンに囁いた。すると、我が意を得たりと、大ハンノンが立ち上がった。
「動議を提出したのは議員ジスコーネであるが、この余が、趣旨を説明いたそう」
大ハンノンが登壇した。
カルタゴの歴史に、内地派の総帥として現れて二十余年。かつて対立した、海外派の雄ハミルカルは既にこの世の人ではない。すなわち、彼こそが、このカルタゴ最大の元老。対立するバルカ党の者どもも、一目置かざるを得ない存在であった。
その彼、腹に響く声で、朗々と演説を始めた。
「誰しもが同意することと思うが、我らが、意思決定をするときに、まず心に留め置かねばならぬこと、それはこのカルタゴ国家の存続、そして繁栄のことである」
そこで、ぎろと議員たちの顔を睨み据えた。
最近のバルカ党議員の狂騒に、苦情を述べているものであろう。
「我がカルタゴの繁栄は、建国より事としてきた海洋貿易、そして、農園経営、鉱山開発、この三本の柱で支えられている」
カルタゴは、伝説の女王エリッサによる建国当時、現地の王より土地を借り受けたことから始まる。だから、街を囲む城壁の外は、もう異国であった。彼らの生きる道は、ただ一つ、貿易しかなかった。
その後、富強となったカルタゴは、内陸に領土を拡張し肥沃な大地を獲得した。農業が新たな産業となった。
そして、イベリア進出に伴い、鉱山開発が盛んとなり、産出される金銀がカルタゴの国庫を潤沢にした。ローマへの賠償金も、ここから捻出されたのだ。
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