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ガリアの首飾り(さらにさらに続き)
「いいだろう」
ハンニバルは言った。
「余の密偵として働くがよい」
「ありがとうございますっ!」
マニアケスは顔を輝かせた。それは生の目的を見出した、人間の喜びであった。
「兄上、お待ちを」
マゴーネが慌てて口を挟んだ。
「いくらなんでも…それは危のうございます」
「何が危ないと申すか」
「左様、弟の申す通り」
ハシュドゥルバルも同調した。
「この者は、義兄を弑した大逆人。いつ兄上に害心を抱くやもしれませぬ。兵のはしくれにするならばともかく、おそばに置くなどもってのほか」
「ふ」
ハンニバルは僅かに笑みを浮かべた。
「そなたらは、まだこの者の覚悟が見えぬか」
「どういうことです?」
マゴーネが訊いた。
「こやつは、もう死ぬ覚悟なのだ。いや、亡き義兄と共にあるつもりなのであろう。…だから、死ねと申せばすぐにも死ぬであろう」
そのマニアケスを見ると、笑みを浮かべ、静かな表情を湛えていた。
生死の境を超越した人間の相だ。命の脅しなど、何の利き目もない。
「それに、余を害するつもりならば、こやつほどの手練れならば、いくらでもその機会があったであろう。今もそうだ。なのに、大人しくしているということ、これほど明白な忠誠の証はないではないか」
ハンニバルは明快であった。
「マニアケス」
ハンニバルは、新たに配下となった、美貌の彼女を見詰めた。
「はい」
「そなたの罪は万死に値する。されど、その死を命ずるは余においてほかになし。亡き義兄上もその様に申す筈」
「仰せの通り」
「これからは、このハンニバルのため、いやカルタゴ国家のために働くがよい。死ぬのはそれからだ」
「ありがたき仰せ。亡き総督様の恩顧に報いるため、粉骨砕身相努めます」
マニアケスは平伏して忠誠を誓った。
ハンニバルは、ここにとてつもない武器を手にしたのであった。
紀元前218年。春も終わる頃。
ハンニバル率いる十万の大軍は新カルタゴを進発した。
総司令官は総督ハンニバル。従う将は、弟マゴーネ、ボミルカルの子ハンノン、そして、ヌミディア騎兵隊長マハルバル、ギリシア人傭兵隊長ヒッポクラテスらである。無論、記録官ソシュロスの姿も、総大将ハンニバルの側にあった。
ハンニバル、このとき二十七歳であった。
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