新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 遭遇戦 
 その頃、ローマ騎兵隊四百は北へ急いでいた。
「まだか!まだハンニバル軍を発見できんのか!」
 指揮官マルキウスは焦っていた。
(いない…人っ子ひとりいない)
 既に二日、昼夜兼行で駆けているというのに、一兵の姿も見えなかった。
(まさか…もう渡河して遠くに進んでしまっているのでは…)
 そう思うと脂汗が浮き上がって来る。
 執政官スキピオの作戦は、敵が渡河するところを急襲するというもの。渡河が完了していれば、マッシリアにいるローマ軍は用をなさなくなる。
 マルキウスに与えられた任務は、ハンニバルの現在地を発見し、渡河地点を探知すること。決して戦闘に及ぶことではない。
 現に、ハンニバル軍渡河しておらずとの前提で、ロダヌスの東岸(・・)を進んでいた。ただ敵がどこにあるかを突き止めること、それだけを目的に急進して来たのだ。
 その彼、敵影を追い求め、対岸ばかりを睨んでいた。



「マルキウス殿!」
 先頭を行く兵が叫んだ。
「どうした!」
「前方より砂塵が…」
 兵が指差した。
 目を凝らすと、馬の群れがこちらに殺到するのが見えた。
「あれは…」
 鞍も付けず自在に馬を操る騎兵の姿。
「ヌミディア騎兵だ!」
 マルキウスは慄然とした。
「なんと」
「ヌミディア騎兵とな」
「あれが…」
 最強騎兵集団の出現に、ローマ騎兵の間に動揺が広がった。
 いや、そんなことよりマルキウスに衝撃を与えたのは、敵兵が既に東岸に渡っているという事実であった。
(待て…一隊だけ先に渡したのやも知れぬ)
 そう思い返すと、目前の敵に気合を入れ直した。
「落ち着け!敵は小隊だ!」
 とはいえ、彼もヌミディア騎兵の強さは伝え知っている。
(正面からぶつかっては勝ち目に乏しい…)
「これ!そなたらは…」
 彼は咄嗟に配下の者に一隊を付け、森の中へ走らせた。
 そして、残る兵力で川岸に展開し、迎撃態勢を整えた。



 当然、ヌミディア騎兵の側も気付いていた。
「おお!こんな所にローマ軍ぞ!」
 マハルバルも愕然としていた。
(ここまで来ていたとは…)
 陣を出て半日の行程でしかない。
 が、別段慌てなかった。彼らヌミディア人は、自分たちの強さを知っている。しかも、彼らは先のローマとの大戦に参戦せず、従って敗戦の苦い記憶とは無縁だったからだ。
だから、ローマ騎兵など頭から馬鹿にしていた。
(ふふ。この我らに騎兵で挑むか)
 片腹痛かった。と同時に、闘争心が燃え上がった。
 が、彼はハンニバルの言いつけを思い出していた。
(総司令殿は戦うなと仰せであったな…)
 だが、彼は、ここで君子よろしく豹変した。
(ここで一撃を与え、我らの強さを見せつけておくことは今後のためになる。それは総司令の今後の作戦のため)
 それは、自身の力を過信する者の陥りやすい思考だ。即ち、都合良い言い訳を思い浮かべ、それにかこつけ猪突猛進する。
 マハルバルは抜刀した。
「それ!一気に突き破れ!」
 ヌミディア騎兵は、わぁと喚声を上げ、再び疾駆し始めた。



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