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※両軍の当初の隊形は4月23日、その後の展開は5月14日の分を御覧下さい。
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カンネーの戦い−包囲撃滅戦(続き)
この頃から、戦況は明らかにカルタゴ優位へと変じ始めていた。
対して、ローマ軍の重装歩兵たちは俄に恐怖を見せ始めていた。
「我らは四方全て包囲されている」
そのことを認識した途端、絶体絶命の危機に陥ったと知覚した。そして、ローマ兵から勇気を奪い去り、戦意を喪失せしめ、人間元来の臆病に囚われる。
ハンニバル軍の包囲の鉄鎖は急激に収縮した。
今や、執政官パウルスの周囲には、リュビア人重装歩兵が殺到していた。
豪華な執政官の軍装が、格好の標的となったのだ。
「それっ!敵将を討ち取れ!」
「敵将パウルスを討ち取れ!」
千載一遇の機会に、彼らは餓狼のように群がった。
「おのれっ、リュビアの野蛮人めが!」
パウルスは奮戦に奮戦していたが、リュビア兵は、濁流のように押し寄せた。
そして。
無数に繰り出される穂先の一つが、彼の体をずんと突いた。
「うっ」
パウルス、たまらずどうっと落馬した。
「あっ、コンスル閣下!」
プブリウス、馬から飛び降り駆け寄った。
慌ててパウルスの上半身を抱き起こした。
「閣下!しっかりなさいませ!」
「…我が婿よ。余はこれまでだ」
パウルスは僅かに笑った。
その顔色はみるみる土気色へと変じていく。
「何を仰せになられます。すぐに後方へ御連れいたします!」
「この状況では…それは無理だ」
周囲では、ローマ兵が身を盾に、必死に防戦している。
「な、何を仰せになられます」
プブリウス、今にも泣き出しそうだった。
彼にも分かっていた。迫り来る悲しい現実が。
「これを…」
パウルスは、震える手で、『星天の剣』をプブリウスに渡した。
「閣下…」
「これはやはりスキピオ家のもの。次代の当主であるそなたが志を遂げよ」
「そ、そんな」
「我が娘アエミリアと我が息子ルキウスに告げよ。そなたらの父は、勇敢に戦い、祖国への崇高な義務を果たし、あの世へ旅立ったと…」
それだけを言い終えると、パウルスは、がくとうなだれた。
「コンスル閣下!」
プブリウスの呼びかけに、パウルスが応えることはもうなかった。
紀元前216年8月2日、ローマの執政官ルキウス・アエミリウス・パウルスは、カンネーの地において戦死した。ここに、また一人、ローマの英雄が倒れたのであった。
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