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肝臓占い(続き)
その頃。プロコンスル(執政官格司令官)のグラックスの陣営。
配下の奴隷出身兵と市民兵の和合を良く図り、しかも連戦連勝。
先にはボミルカルの子ハンノンの軍をベネウェントゥムで撃破し、将兵の士気はすこぶる高かった。
そんな折である。陣中では、厳かに神儀が執り行われていた。
肝臓占いである。犠牲獣の肝臓の模様から吉凶を占うものだ。
(たまには神儀もしておかねばな)
グラックスは、あくびを噛み殺し儀式に臨んでいた。
彼自身それほど信仰心が篤い訳ではない。
だが、ローマ兵の中には、迷信に近いほどの信心深い者も多数含まれる。彼らの不安を取り除くには、占いが一番であった。
(不安を払う言葉さえ、占い師に言ってもらえれば良いのだ)
そして、神儀を重んずれば、保守派の貴顕市民(パトリキ)の受けもよいことを考慮に入れていたろう。貴顕市民の人気も高い彼のこと、そこらの配慮も抜かりはない。
ところが。
肝臓を見詰める占い師の顔色が優れない。
「どうなされました。何か不吉の兆しでも見えまするか?」
グラックスは、背後から覗き込んだ。無論、彼が見ても、何も分からない。
この肝臓占いはエトルリア人からもたらされた神儀。
「それが…どうもただならぬ不吉が」
「ほう」
グラックス、少し目を大きくした。
だが、別段動揺することなどなかった。これまでの合戦において、神異を感ずるところなど皆無であったからだ。
(神というのは、遥か高みにあって、人の所業を見守っているに過ぎぬ)
そんな風にも思うようになっていた。
だから、むしろ占い師の言葉に笑みすら見せた。
「ならば、貴殿に占っておいてもらって良かったといえよう。事前に不吉を知るは吉といえようからな」
からからと笑った。
「そうですが…」
占い師の顔色が一向冴えなかった。
彼は、噛んで含めるように言葉を選び、こう告げた。
「なにとぞ…呉々も御自重を。…さもなければ、不意に足をすくわれる、ということもなきにしもありませぬ」
「分かった。心に留めておこう」
グラックスは穏やかな笑みを見せた。
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