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軍師を所望
紀元前196年冬。シリア帝都アンティオケイア。
「それではお父様、行って参ります」
八歳ぐらいの少女が、礼儀正しく、父に挨拶していた。
「うむ…達者でな」
父は娘の手を握りしめた。
「心配いたすな。エジプト王はそなたを大切にしてくれよう」
「はい」
父はアンティオコス大王。娘の名はクレオパトラ。大王の次女である。あの有名なクレオパトラその人では勿論ない。
クレオパトラという名前自体、ヘレニズム王家の女性によくある名前なのだ。ギリシア語で『父の栄光』という意味が込められている。
先頃、ローマの調停により成立したプトレマイオス王家との和睦に従い、婚姻関係を結ぶこととなった。ただ、長女はバクトリア王国のデメトリオス一世に既に嫁いでいた。ゆえに、クレオパトラを嫁がせることになった訳だ。
ただ、この女性は長じてエジプトの統治権を獲得しクレオパトラ一世となる。即ち、後世の著名なクレオパトラの先祖となる訳だ。
大王は、娘を見送ると、僅かな従者を伴い城下に出かけた。四頭立ての馬車を引かせ、ある人物の屋敷を訪れた。
屋敷の前で大王が馬車から降り立つと、
「これは…陛下!」
突然の行幸に、その屋敷の家人たちは仰天した。
大王はからからと笑った。
「忍びで参った。行儀を取り繕う必要はない。主の許に案内いたせ」
「されど、主は病床に伏せており、誰とも会わぬと申しております」
老家人は声を潜め、申し訳無さげに言った。
「知っておる。医者のくせに病に克てぬ迂闊者に会いに来たのだ。よいから通せ。これは勅命だぞ」
大王は笑って命じた。
ただ、冗談半分でも勅命を持ち出されては否やはあり得ない。
「は…それでは、こちらに」
家人に案内されて、通された部屋には…。
「おおお…これは陛下」
慌てて起き上がったのは、かつての侍医で、権臣ヘルメイアス誅滅の後、重臣に連なったアポロパネス。
「起き上がらずともよい。突然来たのであるからな」
大王は右手を上げた。
「わざわざ拙宅にお越しとは」
「見舞いに来たのではないか」
「それは過分、勿体なきこと」
アポロパネスは身を縮めた。
二人は四方山話となり、当然の如く、先ほど見送った娘の話になった。
「泣きもせず異国に出かけていったわ。 我が娘ながらたいそう感心した」
「はい。クレオパトラ王女様は、幼少の頃よりしっかりしていましたから」
「まだ八歳ぞ。それであのしっかりぶり。エジプトを治めるやもしれんな」
大王の言葉は、冗談の響きであったが、それは後世現実となる。
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