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ミュオンネソス岬の海戦−セイレーン再び(続き)
が、その時である。小船のもう一人の方がすっと立ち上がった。
ヴェールをはらりと落とすと、薄衣に包まれた女が一人現れた。
「あっ」「なんだ!」
すると、その女はサンブカを弾き始め、嫋かに謳い始めた。
「人はなぜ空しく戦うか」
「女神アテナよ応え給え」
「大神ゼウスよ教え給え」
「現世の幸せを求めてか」
「あるのは血と闇のみぞ」
「立ち返れ暖かき故郷へ」
「愛する人々の胸の中へ」
「なんと美しい…」
ロードス兵は奏でる女のニンフ(妖精)の如き美貌に見惚れた。それだけではない。人の心に沁み入るような音曲に美声が響き、思わず聞き惚れてしまった。
だが、異変が起こった。舷側に集まっていたロードス兵の目がとろんとなり、その場に崩れ落ちていくのだ。
「これは…」
エウダモスは愕然とした。
自身の体からも力が抜け始めていたからだ。
「これは幻術!皆の者、耳を塞げ!」
だが、既に遅かった。周囲の兵がばたばた崩れ落ちた。
女は楽曲を弾く手を止め、じっとこちらを見ている。
「ロードスの司令官殿。お役目御苦労に存じます」
まるで高貴な家の女が、知遇を得た高官に挨拶するかのようであった。
「貴様…セイレーンか」
エウダモス、正気を保つため船縁をぐっと握りしめていた。
確かに、この幻術は、美声で船乗りを惑わす怪物セイレーンそのものであった。
「ほほほ」
女は可笑し気に笑った。
「そうお呼びになるのは、アルキメデス先生、テレクレス先生、そしてエウダモス閣下で三人めですわね」
「貴様…マニアケスだな!」
ロードスの提督は、ようやく正体を看破した。
「ほほほ。わたくしめをご存知とは光栄の至り。…ですが、これでおさらばです」
「うぬ…怪物め…逃がさぬ…」
エウダモス、震える手で弓に矢をつがえようとした。だが、手に力が入らない。
マニアケスはにっこりと微笑んだ。
「どこぞの戦場でお会いいたしましょう。勇敢なロードスの戦士よ」
耳に谺するような声が響くと、小船はすーっと消えていく。そう。まるで、この世からあの世に向かうように靄の中へと消えていった。
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