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動転
総指揮官ポリュクセニダスこそ何とか危地を逃れたものの、彼の率いる軍船の多くはローマ艦隊、ロードス艦隊に取り囲まれ捕獲され、沈没してしまった。
間もなく、ミュオンネソス岬周辺の海上にローマ兵、ロードス兵の凱歌が轟いた。
エーゲ海の制海権を賭けたミュオンネソス岬の大海戦は、ローマ・ロードス連合艦隊の大勝利に終わったのである。
海戦の様子を一部始終、遠くの山上から眺めていたアンティオコス大王は、顔面蒼白となっていた。
彼だけではない。王妃エウボイア、重臣ゼウクシス、アンティパトロスらなど、声一つ発しない。
「陛下…」
王妃エウボイアが慰めようと口を開いたが、掛ける言葉が見当たらない。
「終わった…」
大王はぽつりと呟いた。
その言葉は、彼がいかにこの海戦に期待を掛けていたかを示すものであった。
「陛下、気を落とすのは早うございますぞ」
リュディア総督ゼウクシスが絞り出すように声をかけた。
「我らには、まだ陸兵百万が背後にあります。これらを動員すれば、何のローマ如き…」
「言うな」
大王は不快そうに遮った。
「軍船を失ってどうしてギリシアに攻め入ることが出来よう。ギリシアの覇権を得ずして、どうしてヘレニズムの帝王と言えよう」
アンティオコスは、自身の戴くディアデマ(王環)が白々しく思えてならなかった。
王環に王冠、およそ権威の象徴というものは、権力国力が衰えれば何の輝きも放たない。彼の王環はメガスの権威を象徴する。メガスとは、言うまでもなくアレクサンドロス大王の権威を継承するもの。即ち、世界の覇者ということだ。
「アジアの地を守らねばならぬ」
大王は急にそのことに不安になった。
アジアの覇権を失えば、それこそ彼の王環の権威は失墜する。
(次の敵は…スキピオ)
この海戦の大勝利で、次に立ち現れる敵はスキピオ兄弟。ローマ史上最高の名将スキピオが指揮をとる大軍勢。それを思うだけで背筋に寒気が走った。
「アンティパトロス」
「ははっ」
「リュシマケイアの兵力をアジアに戻せ」
「えっ!」
アンティパトロスは絶句した。
リュシマケイアは、今や、大王に残された唯一のヨーロッパの拠点。これを失えば、ギリシア再進攻の望みは完全に絶たれてしまう。
「サルディス近郊に兵力を集結させるのだ。兵力が分散されてあっては、スキピオと戦うことなど思いも寄らぬ」
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