新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 動転(続き)
「陛下、お待ちを!」
 慌てて諌めたのはゼウクシス。
「リュシマケイアを捨てては、それこそスキピオの思う壷」
 そう。スキピオ兄弟は、リュシマケイアの要害を前に足踏みをしているのだから。
「ここを捨てては、やすやすとアジアに渡るのを許すことになりましょう。ローマの勢いますます盛んとなり、それを破るのは容易ではなくなります」
 それは冷静な意見であったし、正論に思えたが…。




「黙れっ!」
 大王は赫怒した。
「海戦で負けたのだ!いざとなればリュシマケイアを迂回してアジアに上陸することも出来よう!」
 それも一理ある。だが、リュシマケイアの拠点としての重要性を大王は認識していなかった。ここを捨てるということは、まさしくヨーロッパから撤退するということ。その象徴的な意味合いは計り知れない。ギリシア本土で戦い続けるアイトリア同盟やエピロスなどの大王の同盟者に与える衝撃も甚大だ。
 そこに思い及ばないということは、大王は、眼前の大敗に、まさに動転していたというしかない。
 痛恨なことに、大王のこの命令は直ちに遂行された。
 突然の命令に、リュシマケイア守備軍も大いに慌てたらしく、兵糧物資の全てを捨て、アジアに退去してしまった。




 その後、スキピオ兄弟率いるローマの大軍は直ちにリュシマケイアに入城した。
 古の勇将リュシマコスが王都を置いたこの天恵の都市を、無血で入手したのだ。
「兄上、信じられぬことですな」
 執政官ルキウス・スキピオは、馬上笑顔を見せた。
 城内を進む途中、大王の命で再建された真新しい建物群、そして、物資が山のように積み上がっているのを見ては笑いが止まらない。
 弟からすれば、兄にくっついていると、時折信じられぬような戦果が降って来る。そんな感覚であったかも知れぬ。




「これも時運」
 スキピオは言った。
「決して偶然ではない。ミュオンネソスでの味方の奮闘あればこそ。だからこそ大王は動転し、思慮の足らぬ命を出す羽目になったのであるから」
 こうしてスキピオ兄弟を妨げていた最大の障害が取り除かれた。アジアへ渡る一切の邪魔は取り除かれたのだ。


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