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度量比べ(続き)
が、スキピオの意外な反応に、大王も元来の負けん気が沸々たぎって来た。
「よし。ならばスキピオがやって来ても絶対負けぬ布陣を施す。直ちに軍議だ」
「ははっ」
ヘラクレイデスは駆けていった。
この時まんまとスキピオの術中にはまったことを、大王は理解していなかった。
スキピオの病中即ちローマ軍劣勢と認識したこと。弱体した敵を攻撃することが、大王としての威厳を損なう振る舞いと自認したこと。何よりも、その思考感情の過程で、敵に先んじて地の利を占めるという意欲が全く消え失せたことだ。
大広間に五十人もの将たちが集められた。
「余は、このヘルモス川の南岸に布陣し、スキピオを迎え撃とうと思う」
大王が意見を披露すると、諸将は訝し気に顔を見合わせた。
(スキピオのいるエライアに押し寄せるのではなかったのか…)
麾下にはガラティア人やアイトリア人など、勝利さえ手にすれば何をしても良いと思う人種も多い。彼らは疑念を通り越し、憤懣の色すら見せた。
その表情の群に、大王は鷹揚に笑って見せた。
「我が軍は敵の三倍近く。しかも、戦力兵糧充分。堂々相対し撃破することが肝心」
大王はすっかり自信を取り戻していた。それは、スキピオが戦場に出て来れないこと、来れたとしても、所詮、病み上がりの男に過ぎないということ。
つまり、自信が高じ、当初の作戦であったペルガモン領内に進攻するという意欲や気分がすっかり失われていたのだ。
だが、戦いにおいて、こういう気紛れは慎まねばならない。こういう弛みこそ、敵の付け入る隙となるのだから。
「陛下」
たまりかねたように口を挟んだのはマニアケス。
「おう。マニアケス、何か意見があるか」
「ここマグネシアは要害とはいえサルディスにもほど近く、異変があらばリュディア全土に影響を及ぼします。今少し敵に接近した地点に戦場を求められてはいかがでしょう」
彼女は、名目上大王の臣ハンニバルに仕える陪臣。しかも群臣の手前である。極力控えめに意見を具申した。
要は、この地で敗北すると、サルディスも失うことになろう。サルディスはリュディアの主都。リュディア全土の支配権が失われれば、当然、エーゲ海沿岸のイオニア、カリアなどの支配権も瓦解する。そのことを危惧したのだ。
「エライア付近で戦えば、あわよくばスキピオを包囲することも出来ます。万が一敗北した場合にも、ここマグネシア付近で敵勢を支えることも出来ましょう」
彼女は、あくまでも前進し敵の領分での決戦を主張した。
そして、これは正論であったし諸将の願う所でもあった。
しかし、大王の御気色は、みるみる険しいものとなった。
「マニアケス。余はメガス。アジアの覇者ぞ」
「はい。それは重々承知しておりまするが…」
「敵将の病中に乗じるなどあり得ぬ振るまい」
相対するのが寛容の大将スキピオとあって、アンティオコスは急に名分に拘るようになっていた。あくまでもスキピオを迎え決戦する、そのことに熱中し出していた。
「ですが、敵の弱みを衝くのも戦いの常道。決して恥じる振る舞いでは…」
「もうよい」
大王は遮った。
「余はここを戦場と定めた。絶対不敗の陣を敷く。異論は許さぬ」
絶対君主の言葉は法そのもの。否やはあり得ない。
マニアケス、思わず瞑目した。
(ああ…大王はスキピオの恐ろしさを理解していない)
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太古の時代の心の機微が、イキイキと描かれていますね!
2017/8/17(木) 午前 8:07
当時の王や武将たちが何よりも重んじるものが名誉。
そのため日本の戦国武将と錯覚するような行動様式が見られます(敗北すれば自決するなど。後世のヨーロッパとは明らかに違います)。
だから、度量というものは指導者にとって必須の素養。負けられないということにもなります。
2017/8/18(金) 午前 7:10