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ドミティウスとエウメネス
紀元前190年12月。
本来ならば冬営に入り休戦となる季節。だが、ヘルモス川南北両岸に十万近い大軍が集結している。決戦を経ずに年を越すことは考えにくい情勢となっていた。
もっとも、両軍ともヘルモス川を挟み気勢を上げるばかりで、いっかな戦闘に入ろうとしなかった。
軍団長グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブスは、ずっと思案していた。
家名の由来である赤茶けた髭(アヘノバルブス)を、しきりに撫でていた。先祖の誰かがそれを家名とし、子孫に赤髭と共に継承させて来た訳だ。
「これが敵の戦車か…」
ミルトが敵陣に密かに接近し、戦車の有り様をスケッチして来てくれていた。
「二頭の馬が台車を引き、二人の兵が乗り、車軸に鎌が付いている。ふーむ。迂闊に近づくことは出来んな」
といって、飛び道具で迎え撃つのも考えものであった。戦車に乗っているのは、弓兵と投槍兵の上手たち。徒歩で接近すれば格好の標的になるであろうし、撃ち合いの間に、味方の弓兵や投石兵の隊列が蹴散らされてしまうであろう。
つまり、平原において、戦車は無敵に近い存在であった。
ドミティウスはスキピオの言葉を思い出していた。
「相手は遥かに大軍。されど、それこそが敵の弱点」
いかなる敵にも動じたことのない、破天荒の将軍はそう言った。
ドミティウスにとって、眼前の人物はずっと憧憬の対象であった。
(この人物の高みに近づきたい)
執政官を経て、フラミニヌスの推挙もあり、ようやく念願叶い、今回スキピオの遠征に従軍することが出来た。
だが、ドミティウスは、これまでの軍議では意見らしい意見を述べたことすらなかった。いずれの局面でも、スキピオの器量に圧倒されたからだ。
それなのに、この人物は、自分を執政官ルキウスの参謀に付けるという。
「それがしが?そんな大任が務まりましょうや?」
「そなたの兵卒に対する指揮ぶりを見て、充分頼みになると見て取った」
病み上がりの英雄はそう言って笑った。
(恐ろしい人物だ)
恐らく、この人物は、こうやって人を虜にし、優秀な配下に仕立てていくのであろう。
事実、この頃本国ローマでのスキピオは、貴顕平民問わぬ人気ぶりで、まさにスーパースターであった。それは、まさにこういう人望の積み重ねの結果であった。
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