新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 二人の指揮官の逡巡 
 一方、こちらマグネシアのアンティオコス大王の本営。
「そうか…スキピオはまだやって来ぬか」
 大王は明らかに苛立っていた。
(まだ来ぬのか。こちらは正々堂々の対決を万端整えておるというのに)
 不思議な人間心理である。
 来襲を恐れ、リュシマケイアを放棄してしまうほど動転した相手なのに。国家の歳入と引き換えに和議を申し入れたほどの相手であるのに。
 それが、今は、そのスキピオ相手に勝つ気満々でいるのだ。




(今なら勝てる)
 大王は確信していた。
 兵力は敵の三倍弱。強力な戦車隊に、選りすぐりの騎兵隊、さらには戦意抜群の象軍。そして、主力のファランクス隊。
(スキピオを破り、全てを取り戻す)
 確かに、スキピオ相手に圧勝すれば、光景は一変するであろう。ペルガモンやロードスなど物の数ではない。アカイア同盟などのギリシア諸国もすぐさま頭を垂れて来よう。マケドニア王フィリッポス五世も大王の足元にひれ伏すしかなくなろう。




 そういう思惑だから、
「陛下、機先を制して攻め寄せてはいかがでしょう」
 王子セレウコスや、アンティパトロスやゼウクシスら重臣の再三の勧めにも、頑として首を縦に振らなかった。
「スキピオを待つのだ」
 大王は頑に言い張った。
 彼が囚われているもう一つの理由が、その敵将スキピオが、
「自分が行くまで待て」
 と要求していることにあろう。敵将が正々堂々の対決を望んでいるのに、メガス(大王)たる自分が、姑息な手法で戦いを挑んで勝利を掴んでも名誉にならない、そんな思い込みなのである。




「それならば」
 マニアケスがたまりかねたように提案した。
「このまま陣内にあるだけでは兵が倦み疲れてしまいますから…」
 無為に過ごせば、遠方より駆けつけた勇者も懦者に堕する、と説いた。
「敵の動きに関わらず、押し出してはいかがでしょう。敵がいつ攻め寄せて来ても良いように、川岸に陣取るのでございます。そして、戦いがないとなれば引き揚げる。それならば、演習を兼ねることにもなりますし、諸国の軍勢との呼吸を合わせることにも役立ちましょう」
 朝に川岸に押し出し、夕にマグネシア城に引き揚げよとの進言である。
 これならば、スキピオを待つ、という大王の意向にも沿うことになる。




「…なるほど。それは良い意見だ」
 諸将は頷き合った。
 マグネシア市内は諸国の兵でごった返しており、言語民族風俗の異なる兵の間で、いさかいも頻発していた。このままでは軍内の秩序を保てなくなろう。
 滞陣の鬱積を打開する方途が緊急に必要であった。
「うむ…そういうことならば」
 アンティオコス大王もようやく裁可した。


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