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挑発
翌朝。大王軍の陣営は騒然となっていた。
「なにっ、ローマ軍が渡河して来たと!」
大王も驚愕していた。
そう。未明にローマ軍、そして、ペルガモン軍、アカイア軍などが大挙して川を渡り、そして、柵を延々と連ね始めたからだ。
「馬鹿な…少数の兵でなおかつ川を背にするなど…」
大王は唖然とした。
背水の陣は、洋の東西を問わず、軍略上あり得ない逸脱。
この時、渋い表情を浮かべたものがいた。
マニアケスである。
(先を越されたか…)
彼女としては、川岸の線まで兵を進めておきたかった。昨日の進言もそのため。
(河岸に陣取ってあれば、河で敵の攻撃を阻むことも出来たものを…)
確かに、敵の攻撃を持ち堪えることが出来れば、そのまま河中に追い落として大勝も出来よう。が、もし劣勢になれば、そのまま味方の隊列に敵軍が飛び込んで来る。
(味方は多種多様な民族部族て構成されている…危ういことだ)
大軍勢ゆえ敵を押し込む力は強いが、小さな綻びが大きな破綻に直結しかねない、そんな脆弱性もある。その懸念を深くしていた。
「陛下」
セレウコス王子が進み出た。
「我らも直ちに前進せねばなりません。さもないと、敵に侮られ、味方の士気は低下するばかり」
王子の意気軒昂に他の諸将も声を合わせた。
「左様にござる」「我らも進まねば侮りを受けるばかり」
「うーむ」
大王は思案した。
(敵はスキピオ・アフリカヌスを待つつもりはないのか…)
ルキウスの積極果敢は意外であった。寡勢ゆえ、てっきりスキピオの采配を恃んでいるものと思い込んでいた。だから、こちらもゆったり構えていたというのに…。
「マニアケス、そなたはどう思う」
大王は、類希なる嗅覚を持つ彼女に訊いた。
マニアケスはすぐさま進言した。
「王子様の仰せの通り、敵勢が城門まで押し寄せて来れば、陛下の陣立ても不自由となりましょう。合戦に及ぶ及ばぬに関わらず、ここは御出陣遊ばすしかありますまいかと存じます」
確かに、ここでの逡巡は味方の士気を落としめるだけでなく、合戦の足場を失うことにもなろう。
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