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挑発(さらに続き)
それからもローマ軍の挑発は続いた。
「無視せよ。あるいは嘲笑してやれ」
そういうことで、陣前に押し掛けるローマ兵と大王軍の兵との間で、怒号や罵声が飛び交うようになった。
だが、それから数日後のある日のこと。
「陛下!」
セレウコス王子が顔を真っ赤にして大王の幕舎にやって来た。
「どうした。そなたも一軍の大将。いずれディアデマを戴く身ぞ。落ち着かぬか」
大王が叱りつけるのも構わず、王子は書状を差し出した。
「これを御覧下さい!これを見れば陛下も穏やかでいられますまい!」
矢文で投げ入れられたという。
「なんだ、これは」
「ローマ軍の軍団長ドミティウスからの挑戦状です」
「軍団長…の挑戦状?」
大王ははらりと広げると、そこにはたどたどしいギリシア語が綴られていた。
が、その内容は激烈なものであった。
『ローマのレガトゥス、グナエウス・ドミティウス・アヘノバルブス、一筆大王に進上す。我ら、速やかなる決着を希望す。よって、明日、貴殿が出て来る出て来ないに関わらず、貴陣に攻め込む所存。よろしく覚悟ありたし』
「これは…」
大王は唖然とした。
一軍の軍団長に過ぎぬ男が敵の総大将に挑戦状を叩き付けて来たのだ。
(これは…いったい…)
大王は、怒りというよりも、困惑の表情を浮かべた。
「マニアケス、そなたはこれをどう見る」
「はい。これはおかしゅうございますな」
「何がおかしい」
「ローマは規律を重んじる軍団。執政官の命令には絶対服従。背けば死刑」
一部将に過ぎぬ軍団長が総指揮官たる執政官を飛び越えることはあり得ない、と。
「となると、この挑戦状は…」
「無論ルキウスも承知してのことでしょう。敢えて格の低い者を差出人とすることで、我らを怒らせるつもりかと」
「ふーむ」
大王は顔を歪めた。
(ルキウスらはどうあっても戦いたいようだ…。さてどうしたものか)
敵の思惑を嗅ぎ取った大王は、
「セレウコスよ、この挑戦状のことは味方には伏せておけ」
父王の命に、今度はセレウコスが困惑の表情を浮かべた。
「もう全軍に知れ渡っております」
「なに…なぜだ」
「敵はこれと同じ矢文を多数射込んで参りました」
「なんと…」
ドミティウスの無礼千万な挑戦状はギリシア語、ガリア語、ペルシア語で認められていた。そして、それぞれの陣所に幾つも撃ち込まれていたのだ。
「そのため味方はいたく激高しております」
「うむむ」
いつの間にか、ある方向へ否応無く押し流され始めている。
(これは策だ。ドミティウスの策か。…いや、スキピオか!)
大王は、あたかも見えぬ敵がそこにあるかのように、中空を睨み付けた。
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