新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 母なる都市
 ここフリュギア地方の都市アパメイア(現ディナル)。
 ここは第二代国王アンティオコス一世により創建されたギリシア都市。母アパマ(セレウコス一世王妃)にちなんで建設された都市の一つだ。
 アンティオコス大王はこの都市に逃げ込んでいた。
 ここまで来ればローマ軍来襲の心配の必要はない。




(どうすべきか)
 安堵の息をついた途端、彼の苦慮の時が始まった。
 頭上のディアデマが、この時ほど重くのしかかって来たことはなかった。
(これがなければどれほど気楽か)
 一国の王というだけならば、何も気に病むことはない。彼の王国は、一国としては、まだ世界最大規模の領域を誇る。ローマとその同盟国の領分よりも広かったし、東方の漢帝国よりもその版図は大きかった。
 だが、彼が戴冠し象徴する地位は、世界最強の支配者たるメガス。一国の王というだけでは、そもそも戴くことのできぬもの。




 大王は、散々に悩んだ挙げ句、王妃エウボイアを連れ、気分転換することにした。城外に出て、この地方名物の湯に浸かることにしたのだ。
 四頭立ての馬車に同乗した王妃は、見る景色全てが珍しく、辺りを見回した。
「大王様とこのように遊山に出かけることができるなど嬉しゅうございます」
 無邪気に喜んだ。
 無理もない。彼女はカルキスの大商人の令嬢。そして、セレウコス王室に嫁いで来た。苦労知らずの女性。カルキスからアジアに渡った経験も、この厳しい世の中にあっては苦労のうちには入らぬであろう。




(他愛無いものだな…)
 大王は僅かに苦笑したが、いや、と彼女の髪を撫でてやった。
「そうだの。余もとても嬉しい。そなたと穏やかな日々をまた共に出来て」
 こういう気分こそ、新たな発想や着想に必要なのだと思い返した訳だ。




 大王は王妃と共に温泉につかった。いわゆる露天風呂である。
 現代トルコの温泉と言えばパムッカレがひときわ著名であるが、アナトリアには大小多くの温泉がある。セレウコス王家や重役の歴々は勿論、民衆の多くもその極楽に浸っていたに違いない。



「ふーっ」
 大王は大きく息をついた。
 湯を愛する人々ならば、その気持ちは分かるであろう。
 この二年続いた神経すり減らす交渉攻防、相次ぐ大戦。
 湯は、そんな人間の疲弊した体を優しく癒してくれる。



「陛下、御覧下さいませ。何と美しい山々でしょう」
 王妃がわくわくした声で語りかけた。
 狭いエウボイア島のカルキスの街しか知らぬ彼女、目にする自然全てに驚愕した。
「うん」
 大王は仰ぎ見た。
 そこは厳冬のフリュギア。
 連なる頂が神々しく白く光っている。



(ああ…この世界は何一つ変わっていない)
 だが、人間世界は昨日とまるで変わっていた。
 ヨーロッパから駆逐され、帝国創業の地の一つリュディアは敵の軍馬で満ち満ち、悠久の都サルディスも失った。これら拠点を失った以上、ギリシア世界制覇の大望は完全に打ち砕かれたといってよかった。


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