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母なる都市(さらに続き)
「ハンニバル殿。余はローマと和平するぞ」
ずばと結論を切り出した。
「左様でございますか」
ハンニバルの表情は穏やかなままであった。
「反対せぬのか」
大王は隻眼をまっすぐ見詰めた。
ハンニバルは静かに首を振った。
「この時を逃せば和平へ運ぶのは難しくなりましょう。帰還したマニアケスもそのことを強く申しておりました。それがしも大賛成にございます」
「…そうか」
大王がまず、この亡命の重臣に諮ったのは、この者が対ローマ戦に己の全てを賭けていたからだ。また、この者の意見によってギリシア遠征を決意した経緯もある。
何よりも、ローマと和平すれば、ハンニバルはこの帝国に身の置き所はなくなる。そのことに配慮しないわけにはいかなかった。
が、ハンニバルは我が身を顧みず、和平の提案に即座に賛成した。
大王は、フリュギアの山々を見上げた時と同じ清々しさを覚えた。
「心配いたすな。そなたを売る真似は決してせぬ」
大王は断言した。
「え…しかし」
ハンニバルは戸惑った。
ローマ側が自分の引渡を要求してくるのは疑いない。二度の大戦を引き起こした戦犯として。それを拒めば、恐らく和平自体成らぬであろう。
「なに。アイトリア人たちは引き渡す。そなたは…ふふ。まあ見ていよ」
この時代、狡猾な策を巡らすことにかけて、ヘレニズム君主の右に出るものはなかった。陰謀・謀略渦巻く王家に育った者のみが備える素養なのであった。
「それより心配なのは、スキピオの領土要求がどこまで及ぶか、ということだ」
大王がサルディスにある頃に交渉した時には、タウロス以西の放棄を要求された。
そらすらも途方もない要求として仰天した。それ以上となれば、キリキア、帝都アンティオケイアすら脅かされることとなる。それは到底受け容れ難い。
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