|
[https://novel.blogmura.com/novel_historical/ranking.html にほんブログ村 歴史・時代小説]
↑
ランキングに参加しています。お越しの際には応援の1クリックをお願いいたします(1日1回有効)
世界の覇者インペラートル(さらに続き)
翌朝。アンティパトロスとゼウクシスはローマ軍本営に招かれた。
二人は極度に緊張していた。
エウメネス王らの横槍はないと分かった。だが、である。
(果たしてスキピオはどのような要求をしてくるか)
大王からは、以前の要求と同程度のものが出されるとの見通しが伝えられていたが、二人はそれを甚だ疑問視していた。
(あのマグネシアの勝利を経て同じ要求などということがあり得るであろうか)
スキピオの本営は、地中海世界がローマの威風に靡いたかのような威容であった。
二人の疑念は猜疑から畏怖へ変じた。だから、スキピオの前に出て弁明が許されると、饒舌すぎるほどに語り始めた。
まず王族アンティパトロスが進み出た。
「我ら敗戦の身に講和の機会をお与えくださり幸甚の極み」
彼は型どおりの挨拶から始めると、ギリシア人らしく論じ出した。
「天上の神々はローマ国家と閣下に微笑むこととりました」
それは、今回の勝利は幸運によるものだということだ。
確かに、マグネシアの戦いは幸運そのものの経過を辿った。スキピオの遠謀、エウメネスやドミティウスの機略、ルキウスの決断、それらも寄与したが、大王軍の戦車隊があのように脆く崩壊しなければ、どう推移したろう。長期戦になれば、アジアの後背には大王の戦力が無数に控えてあるのだ。このように直ちに終戦とはならなかったろう。
「それゆえに」
続いてゼウクシスは語気を強めた。
「謙虚かつ寛大な心を忘れるべきではないと存じます。なぜならば、その心を忘れれば神々の加護はたちまち失われ、新たな覇者があなた方の上に君臨することは必定であるからにございます」
思い上がって過大な要求をしないよう要望した。
「我が君主アンティオコスは、自身を省みて、その思い上がりが今日の事態を招き寄せたものとして、謹んでローマ国家との和議を取り結びたいと申しております。そのためならばいかなる努力も惜しむまい、と。ローマ国家とその同盟国におかれても、胸襟を開き、そのための途を我らにお示しいただきたい」
要は、どうすれば許してもらえるのか、和平に応じて呉れるのか、そのことを言った。
スキピオは黙って使者の言葉に耳を傾けていたが、おもむろに口を開いた。
「我がローマは、敗北したからとて屈せず、勝利したからとて奢らず」
建国以来の国家の美徳を上げた。この精神がローマ国家発展の原動力となったことを。誕生間もない怪しい出自の都市国家に人を集め、同盟市を増やした。
そして、エトルリア人、サムニウム人、ギリシア人、カルタゴ人という強敵を破る原動力となったことを。今や、ローマ有力者の中にエトルリア人やサムニウム人を祖とする者があることを誰も疑っていない。将来、そこにはギリシア人やカルタゴ人すらも含まれることになろう。
「従って、ローマが貴国に与える回答は、ヘレスポントスで与えたものと同じである。すなわち、賠償金15000タラントン、締結時に500タラントン、民会批准時に2500タラントン、残12000タラントンを年譜1000タラントンを12年で弁済すべきこと」
賠償額はカルタゴに課された額の1.5倍。だが、東方諸州から上がる潤沢な歳入を充てれば何とかなる額。ゼウクシスもアンティパトロスも覚悟して呑み込んだ。
「次に、ローマへの敵対を煽った人々の引渡しを要求する。カルタゴ人ハンニバル、アイトリア人トアス…」
スキピオは戦犯の名を縷々と読み上げた。
これも予想の範囲内だ。むしろ、セレウコス朝の王族将軍の誰の引渡も要求していないことは、希有の寛容とすらいえよう。
|