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世界の覇者インペラートル(さらにさらに続き)
(問題はこの次だ)
使者の二人はスキピオの口元を凝視した。
「そして、割譲すべき土地は…」
セレウコス王家の最大の関心事に、二人の使者はごくと唾を呑み込んだ。
この要求如何によっては戦いはまだ続き、帝国は存亡の瀬戸際に追いやられる。
「タウロス山脈以西の全てを明け渡し、またプトレマイオス王家(エジプト)から奪った領土を全て返還すべきこと」
スキピオは僅かに微笑んだ。
二人の使者は一瞬ぽかんとし、次の瞬間喜悦の表情を浮かべた。
「おおお」「なんと」
それは、確かにヘレスポントスの折の要求と寸分違わぬものであった。
(まさか…)(本当にこんなことが)
「細かな点は、関係諸国を集め、元老院における会議にて詰めることになろう」
戦勝国はローマだけではない。ペルガモン王国、ロードス、アカイア同盟ほか大小のギリシア人都市国家。さらに、エジプト、その他アジアの諸都市など、どこの国々もセレウコス朝に要求したいことを山ほど抱えていた。その利害の調整が不可欠だ。
執政官とその幕僚たちの一存だけでは遺漏なく取り決めることは不可能だ。
「が、以上の点に異存なくば和議を取り結びたいと思う。いかがかな」
「ははっ」「我らに異存はありませぬ」
使者の二人は即座に承諾した。
大王から、領土割譲について以前と同じ内容−タウロス以西の割譲−ならば直ちに承諾せよと命令されていたからだ。
執政官ルキウス・スキピオがすっくと立ち上がった。
「ならば、ローマの同盟国並びに関係諸国、そしてシリア王国の人々よ、この夏にローマに参集されたし。そこにおいて、講和の是非、内容を審議することであろう」
それは地中海世界の支配者の宣言。
「ははーっ」
諸国の代表は恭しく畏んだ。
間もなく。スキピオ兄弟がサルディスを出立してエフェソスに凱旋することとなった。
立ち現れた執政官ルキウスの姿に対して、
「コンスル閣下万歳!」「ローマ国家万歳!」
将兵から歓呼が上がった。
ところが。次に現れたスキピオ・アフリカヌスの姿に対して、
「インペラートル!」
そんな歓呼が上がった。
それは不思議な呼称だ。『インペリウム=命令権』を保持する者ということだ。
しかし、日本にもあるではないか。例えば『大御所』という呼称だ。字面から言えば大きな御所、つまりお屋敷ということでしかない。
日本人は、地名建物で権威を誇る物差しにしている。御堂殿といえば藤原道長のことを、鎌倉殿といえば幕府将軍の源頼朝を、大御所といえば徳川家康を指した。そして、内裏様といえば天皇・天子。官職位階などでは表現し得ぬ権威を表したものだ。
スキピオも位階は副官に過ぎずインペリウムを保持していない。そこら辺の塩梅を『インペラートル』という言葉に込めたのであろう。常にインペリウムを保持しているかの如き権威をまとう者、という栄誉ある称号。すなわちローマの最高司令官、と。
この称号は、後に定着し、実力者たちがこぞって称することになる。
英語のエンペラー(皇帝)の語源ともなる訳だ。
「インペラートル!」「インペラートル!」
率先して叫んでいたのは、セルギウスらスキピオ子飼いの将兵たち。それに声を合わせて他のローマ将兵が、続いて同盟国将兵が訳も分からず声を合わせ、ついには山野に谺が満ち満ちていく。
スキピオ・アフリカヌスは手を挙げて応えた。
彼には理解できたろう。新たな権威を讃える呼び名として。
それは、メガス(大王)に代わる、地上に現れた新たな覇者の称号でもあった。
第13章世界帝国の章終わり。終章へ続く。
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歓喜に包まれた凱旋が見えるようです。🎉
2017/10/19(木) 午後 7:31
返事が遅れ申し訳ありません。
スキピオ・アフリカヌスに対する、インペラートルの歓呼が歴史上初めてという説も有力で、それに従いました。
この歓呼は、後々、マリウス、スッラ、ポンペイウス、カエサル、アウグストゥス、英雄と称される者たち皆が受けることとなります。
2017/10/27(金) 午後 5:43