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旅立ち
別れの時がやっ来た。
「これからどうなさるおつもりです」
スキピオが問うと、ハンニバルは苦笑した。
「安心し給え。ローマの災いとなることはなかろうて」
「いや、そうではなく…。落ち着き先はあるのですか」
ハンニバルはアンティオコスの王国を追われる運命。天下の覇者ローマの罪人となる。この地上に受け容れてくれる国があろうとは思えない。
「心配無用。ある。だが、教えられんな。君の弟は追捕の責任者」
ハンニバルは微笑した。
「ならば…」
スキピオは周囲を見回した。
聞き耳を立てている者がいないかどうか確認すると、
「今から独り言を申します」と言った。
「独り言?」
ハンニバルは怪訝な眉をした。
「それゆえ私は何も関知しませぬ。もし独り言に配慮するとすれば、それは神々の仕業。それによって何か動くとすれば神慮。人の慮外にある事柄。…よいな、ルキウス」
不思議な物言い、不思議な念押し。
「は…。兄上がそう仰せならば」
弟は戸惑いながらも素直に頷いた。
「私がハンニバルならばビュテニアに赴きます」
スキピオは言った。
どうやらハンニバルの行く先を暗示するつもりのようだ。
「ビュテニア…ローマの同盟国ではないか」
ハンニバルは眉をひそめた。
ビュテニアはペルガモン王国の北隣、小アジアの北西を領分とする王国。スキピオのアジア上陸と共に、ローマ同盟国に変じた国だ。
「これは独り言です」
スキピオは苦笑した。
「ビュテニアの王プルシアスは猜疑心の強い男。戦後、強大化するペルガモン、勢力回復を狙うマケドニア王フィリッポスへの対応に、さぞ頭を悩ませておりましょう」
そう。諸国は、早くも戦後の新秩序を前提に活発に動き出していた。
ローマという覇者の許で、なるべく多くのものを手に入れたい、そう考えるのは国家指導者の義務であり本能だからだ。
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