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アンティオコスその後−信頼を裏切った結末(さらに続き)
四頭立ての馬車は街の中央の神殿に向かった。
「陛下、大変な騒ぎになっています」
ムサイオスが顔を青ざめさせた。
アフラ・マズダの神殿の階段付近で、近衛兵と群衆が睨み合っていた。
奉納品を運び出そうとする近衛兵と、ならじとする民衆が対峙している。
(ちっ、だから素早く済ませよと命じたものを)
王は近衛兵の要領の悪さに内心毒づいた。
だが、正体が近衛兵と知れたからには、何とか事態を収拾しなければならない。さもなくば、この騒動はスサばかりでなく、エラム全域、さらにバビロニア、ペルシスに及ぶ恐れがあった。
「諸君、静まり給え!」
王は降り立つと右手を差し出す王者のポーズをとり、人々に呼び掛けた。
常ならば、それで万人がひれ伏す筈だったが…。
「あっ!王が来たぞ!」
興奮した群衆は王の周囲に殺到した。そして、口々に叫び始めた。
「このようなことお止めくだされ!」
「我らの神殿を破壊しないでくれ!」
老若男女、まさに全ての顔が、支配者に抗議した。
「待て!余の話を聞け!」
王は狼狽した。
生来、支配者として過ごして来た彼、このように問い詰められることはなかった。宿敵ローマの使節ですら、敬意を払って接して来た。
「これ!無礼であろう!」「それ以上近づくでない!」
近衛兵が王の身辺に駆けより制止したが、彼らは神殿狼藉の実行犯。
むしろ逆効果であった。群衆の怒りに火を注ぐ結果となり、その怒りのど真ん中に王を置く格好となった。
「神々の社を侵す者どもが!」
叫び声が上がり、どこからともなく石が飛び始めた。
まさに群集心理であろう。一人ならば、王に石つぶてを投げるなどとてもできない。だが、この群衆の中にあれば、誰が投げたか誰が当てたか分かりようがない。つまり捕捉されない安心感である。
そう分かると行動は一気に過激化する。暴徒化である。
無数の石つぶてが、近衛兵と王を目掛けて飛んで来た。
「うわっ!」「うっ!」
近衛兵は武装している。だから何とか堪えることが出来る。
が、王は平服。近衛兵が体を盾に必死にかばっていたが…。
「ぐわっ!」
王が一声叫ぶと、その場にもんどりうって倒れた。
「あ!陛下!」
見ると、アンティオコスが頭から血を流して倒れている。
「陛下!陛下!」
呼び掛けにも全く応えない。
只ならぬ空気を察したのか、群衆はわっと散り始めた。そう。恐怖心は群集心理を一気に冷やす。
近衛兵は動転した。群衆を追うどころではない。
アンティオコスの顔色はみるみる土気色となっていく。
「いかん!医者だ!」「医師を呼べ!」
王の体は迎賓館に運ばれた。何人もの医師も呼ばれた。
だが、必死の介抱にも関わらず、王の意識は戻ることはなかった。
紀元前187年。アンティオコス三世、幾多の危機を経て、一度はメガスの栄誉を克ち取った男は、ローマに敗れ、その賠償金に追われ、結局異郷のスサの地で生涯を閉じたのであった。享年五十四歳であった。
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