新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 フィリッポスその後−骨肉の争い(続き)
 王より帰国を命じられたデメトリオスは血相を変えた。
「なにゆえでございます!父上!」
 今回の遠征は、いわば王子二人の初陣でもある。だから、互いに功を競い合って来た。王子に従う家臣たちの浮沈もかかっている。そのことが連戦連勝にも繋がって来た。




「いや、そなたの働きに不満がある訳ではない。王都周辺が騒がしいと聞こえて来たので、そなたを差し向け沈静化しようと思ったのだ」
 王はそんな風に言い訳したが、デメトリオスは素直に受け取らなかった。
 なぜならば、彼の耳にはペルセウス王子が何やら囁いた後にこの呼び出しがあったことを、王の側臣から密かに聞いていたからだ。
(またしても、兄ペルセウスの、よこしまな告げ口よな)
 そう思っているから、父の言葉も、兄への不当な肩入れとしか聞こえない。




「これは王命である」
 父は王の威厳をもって命じた。
「陛下は、兄の言葉を真に受け、わたくしめを…」
「違う」
 王は厳しく遮った。
「そなたを大事に思えばこそ都の守備を任せるのだ。心得違いをいたすな」
「はい…」
 デメトリオス王子は不承不承帰国の途に着いた。




 デメトリオスがペラに戻ると、至って平静で騒乱の気配すら感じられなかった。
(…やはりか)
 胸中、荒野に風が吹きすさぶが如くとなった。
 間もなく、父と兄が得意げに凱旋して来たが、宮中に出仕する気にもなれなかった。
(父は、まだローマと戦うつもりでいるらしい)
 王子とて父の野心に薄々勘付いていた。だが、ローマと事を構えれば、王国は滅亡しかないと思い、父を必死に諌めて来た。ローマに赴き火消しにも躍起となった。
(それが気に入らないらしい…)
 兄が即位すれば、これまでの対立から無事に過ごせそうになかった。
(これはローマに亡命した方が良いかも知れぬ…)
 王子は真剣に身の振り先を考え始めた。
 その矢先に事件は起こった。




 王都ペラの郊外で、国家の英雄クサントスに捧げる犠牲式が催された。
 これは、犬を犠牲に供し、引き裂いた犬の体の間を軍隊が行進するという奇妙な儀式で、王国代々行われて来た儀式らしかった。きっとクサントスという人物は、犬に何かしら関係する事績を残したのであろう。
 この犠牲式の後、フィリッポス王は、王子二人に命じて模擬戦を催した。
 即ち、二組に分け、一方をペルセウス王子を大将とし他方をデメトリオスを大将にして模擬合戦を行わせた。兵数武具は全く同一であるから、要は指揮采配の優劣が明らかになる訳だ。




「それ、敵の隊列を突き崩せ!」
 歩兵を前面に猪突猛進する兄の軍勢に、最初押し込まれていた弟の軍勢であったが、
「よし!左右より攻めかかれ!」
 ここぞと騎兵を両側面から衝かせた。すると、兄の軍勢は脆くも崩れたった。




(ふーむ。これは…)
 フィリッポスは目を見張った。
 兄の采配は伝統的なマケドニア式だが、弟の戦術は明らかに違う。ハンニバル式でありスキピオ式、否、今やローマ式と呼ぶに相応しい包囲撃滅戦術であった。
 ヘレニズム諸国がローマに敗北して以降、急速に戦いの主流は、これまでの長槍を持った歩兵重視のファランクス戦法から、騎兵活用のローマ戦法が主流となり始めていた。
 デメトリオスは、ローマ人質時代に、親しかったフラミニヌス若しくはスキピオその人に手ほどきを受けたのやも知れぬ。


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