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フィリッポスその後−錯乱の末に(続き)
王は、苦悩の中をもがいていたが、ついに思い切った。
時刻は物音一つしない真夜中であったが、
「フィロクレスを呼べ」
腹心中の腹心を呼びつけた。
「う…陛下…」
現れたフィロクレスは絶句した。
王の頬がげっそり削り取られ、何年も歳を経たかの如き老いを露にしていたからだ。
「む…よく来てくれたな」
力ない笑みが返って来た。
「こんな夜更けに…何事にございます」
「王家の災いを取り除いてほしいのだ」
王は小瓶を差し出した。
「え!これは…」
フィロクレスは顔を青ざめさせた。
この重臣は王の謀略陰謀に深く関わって来た。だから、王が誰を指して『災い』と呼ぶのかもすぐに理解した。そして、その瓶の中身が何であるかも…。
「どうしても…ですか」
この小瓶を下賜する使者を幾度も務めた。その彼も、さすがに訊き返した。
「どうしても…だ」
王は目許に苦渋を滲ませた。
「王家のため…頼むフィロクレス」
王は滅多に下げぬ頭を下げた。確かに、これは他人の手に縋るしかない。
ここデメトリオス王子の屋敷。
フィロクレスは用心深く手勢を率いて屋敷を取り囲み、それから屋敷の主である王子に面会を求めた。謀反を防ぐ彼らしい用心深さであった。
「そうですか…父がこれを」
デメトリオスは、静か過ぎるぐらい静かに受け止めた。
「は…陛下の御命。なにとぞ心安らかに…」
フィロクレスは目を伏せ一気に用命を申し渡した。とても正視出来ない。
「分かりました…ですが、陛下にお伝えください」
王子は寂し気な眉を浮かべた。
「わたくし、陛下に逆心を抱いたことはなく、ただただ王国の存立と安全を図って来ていたことを。ローマの友と語り合って来たのも、それ以外のことではない、と。決して、国家や父上の秘密に属する事は漏らしてはいない、と」
そう述べると、王子は別室に下がると、毒杯を一気にあおった。
紀元前180年冬。デメトリオス王子はこうして世を去った。享年二十七歳であった。
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