新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 勝者の問題(さらに続き)
 紀元前184年初め。ケンソルの任期が始まると、カトーは活発に動き出した。
 最初の標的に定めたのは、ルキウス・フラミニヌス。フラミニヌスの兄である。
 紀元前192年の執政官でもある。
「ルキウス・フラミニヌスは、あろうことか、人の処刑する有様を酒宴の余興に添える、おぞましき人物」
 元老院で弾劾事由をぶち上げた。




 これは、ルキウス・フラミニヌスが紀元前191年にプロコンスルとして北イタリア(ガリア・キサルピーナ)の総督在任時の出来事。
 彼は寵愛する少年をローマから呼び寄せた。そう。ギリシア人の少年愛の風習もいつしかローマ人紳士の嗜好の一つとなっていた。こういうところも、保守派政治家や長老たちの眉をひそめさせたのであろう。
 その少年が到着すると残念そうにこう言った。
「出立直前、一騎打ちの催しがありまして。わたくし、人の死を見たことがありませんので、見逃したことがたいそう心残りで…」
 戦士同士の剣闘技の見せ物であろう。人の死に様を愉しむのは、ローマ人の悪趣味である。この娯楽は、これから何世紀にも渡り繁栄を謳歌することになる。引き出されるのは戦争捕虜や奴隷たち。
 一大文明を築き上げたローマであるが、人権という感覚が完全に欠損していることが、この事実でよく分かる。奴隷経済が、人権というものを感覚させる前提を生まなかったのであろう。



「ですが、閣下の思し召しは至上。我慢してこちらに駆けつけました」
「何も残念がることはない」
 ルキウス・フラミニヌスは笑った。
「罪人を連れて来て、ここで処刑させよう。ならば、そなたの見たかったものが見ることが出来よう」
 そういうと、死刑判決を受けた罪人を宴席の場に引き出し、眼前で斬首刑に処した。
 どうやら、この男は弟ティトゥスに比べ相当軽薄であったようだ。
 どこから情報を仕入れたか、カトーはこれを取り上げたのである。




「かかる道徳観念の薄き者は元老院議員たる資格はない」
 峻烈なカトーは、ルキウス・フラミニヌスを除名処分とした。つまり、元老院議員資格を剥奪したのである。これは政治生命を絶たれるに等しい。
 これはかなりの衝撃を人々に与えたらしい。ケンソルの除籍の権能は滅多に発動されることはなかったからだ。




 これに烈火の如く怒ったのが、弟のティトゥス・フラミニヌス。
「ケンソル殿!いかなる根拠があって我が兄を除名したのか!」
 カトーに詰め寄った。
「それならば」
 元々敵の多いカトー、これしきの恫喝脅迫で微塵も動揺しない。
「スポンシオで決着を付けようではないか」




 スポンシオとは、原告被告が敗訴した場合には賠償金を相手に支払うことを約束して開始する訴訟手続のこと。勝てば良いが負ければ莫大な負債を負うこととなる。法廷を舞台にした弁論の決闘の如きものだ。
 当時、カトーは引く手あまたな辣腕弁護士でもあった。腐敗した政治家をこっぴどく懲らしめるので、人々の喝采を得ていた。そう。彼の人気もなかなかのものなのだ。
 その彼を向こうに回して法廷で対峙することに、ルキウス・フラミニヌスは怖じ気づいたのであろう。出頭することはなかった。
 結果、ルキウス・フラミニヌスは、宴席の不始末が原因で失脚してしまった。何とも情けない話である。


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