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非難から喝采へ(さらに続き)
「ならば…」
スキピオはおもむろに口を開いた。
雄弁な彼のこと、弁解ならばいかようにも出来たであろう。500タラントンの処分については、これまでの慣例通り執政官の職分として兵士に分配したと強弁してもよかったろう。息子の件に関しては真実を話しても問題はなかった筈。
大王を見逃したのも、それが敗北した敵に温情を与えるローマ伝統の美徳と堂々反論出来た筈だ。
が、多弁が功を奏するとは限らないのが、こういう局面。人々はある思い込みを前提に批判一色に染まる。それに一つずつ詳細に反論することに果たして効果があるのか。しかも、市民の多くは経済的苦境に陥っている。そういうときには、冷静な耳を持っていないことも多い。
スキピオはずいと前に出た。
「ローマにおいて、このプブリウス・スキピオに対する告発を耳にするとは奇妙」
彼らしい言い回しと共に、視線をぐるりと回した。
様々な顔がいる。目を凝らせば、彼の下で働いたと思しき顔が多くいる。
意外な語り口に市民は顔を見合わせ、再び視線をその人に向けた。
「ローマ市民は、かつて滅亡の極みに追い詰められた折、このスキピオに期待を寄せたのではなかったか。そして、私はその期待に応えたのではなかったのか」
滔々と問いかけるスキピオに、先ほどの喧噪が嘘のように静まり返った。
思い出した。あの時、家の戸口にハンニバルの影を感じた。まさに這うような恐怖に全ローマ市、全市民が囚われていた。
神殿に縋り付いたあの記憶が甦って来た。あの時、眼前の人物に全ての期待を寄せたのであった。そして、その期待を遥かに越える結果を叩き出したのも眼前の人物であった。
「断罪するならばそれでよかろう。それでローマ国家の大義が立つならば。だが、告発する者も、そう告発出来ること自体、その告発した相手の御蔭であることを忘れないでもらいたい」
その言葉を聞くや、ローマの人々は悄然とうなだれた。
ザマの勝利の報に人々は確かな明日の空を掴んだ。そして、マグネシアの勝利に世界の覇者となった誇りを実感した。
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