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非難から喝采へ(さらにさらに続き)
「諸君!」
声を上げたのは護民官グラックス。
(なおもスキピオ殿を追及するつもりか…)
今回の告発は護民官の発案。だから、護民官全員がカトーに与していると市民には思われていた。
「私はプレプス・トリブヌス(護民官)ではなく、一ローマ市民として発言する」
彼の凛とした言葉が響いた。
「国家の英雄に対して、これ以上の追及は相応しくない。ローマ国家の有り様としても美しくない。審理は直ちに打ち切るべきものと思う」
それは意外な、しかも勇気ある発言であった。
彼は護民官。容疑追及の義務を負う地位にある。その彼が手続中止を提議したのだ。
人々は逡巡していたが、やがて…
「賛成!」
一人の市民の声が上がると、それはたちまち議場全てに伝播した。
「そうだ…これはよくない」
「これ以上はやめにしよう」
そして、まるで自分たちが不始末を仕出かしたかのようにばつの悪い、苦笑を浮かべ合うのであった。要は、調子に乗ってやり過ぎてしまった、そんな感覚だ。
今度はスキピオは微笑みを浮かべた。
「諸君。今日は、なんという偶然か、ザマの勝利を収めた日と同じ。私はカピトリウムの神殿に参詣しローマ国家の今日あることを感謝したいと思う。諸君も共に参らぬか」
そう言うと、スキピオは背を向けて議場の出口に向かって歩き出した。
市民たちは顔を見合わせていたが、ぞろぞろと歩き始めた。
歓喜も拍手もない。だが、これはまさしくスキピオに対する喝采にほかならない。
「あ…」「ちと待たれよ」
狼狽したのはカトーに与する護民官たち。
彼らは先ほどからの急展開に、しかも同僚護民官の造反に動転し呆然としていた。だから、閉会の宣言もしていないのだ。
スキピオはその声に振り向き、
「君たちも来るがいい。君たちも神々の祝福に与るローマ市民なのであるから」
と笑った。
護民官たちはカトーの手前ためらっていたが、グラックスが歩き出すと、慌ててそれに付き従った。彼らは市民の支持がなければ根無し草になるしかなかったからだ。
マルス野は、ただ一人を残し誰もいなくなった。
その一人は、マルクス・フォルキウス・カトー。
(おのれ…スキピオ…)
監察官の沽券にかけて微動だにしなかったが、体を屈辱に震わせていた。
ここに彼がまたしても敗北したのは明らかであった。
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