新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 少女コルネリア
 数日後。スキピオは、とある人物を自宅に招いた。
「よろしいのかな。我が家にお越しいただいて」
 スキピオは微笑した。
「構いませぬ。閣下の事はもう済んだことです」
 そう返事して笑ったのは、ティベリウス・センプローニウス・グラックス。
 そう。護民官グラックスである。
 カトー一派は、容疑をルキウス・コルネリウスに切り替え攻め続けることにしたが、グラックスは反対し、以降彼らと袂を分かった。
 グラックスは、時の権力者カトーから離れる決断をした訳だ。立身出世を宿命付けられたローマ政治家にとって、非常に勇気のいることだ。




「貴君に是非とも会わせたい者がいるのだ」
 スキピオは言った。
「は…どなた様で」
「これ」
 主の声に、彼の妻アエミリアが一人の少女を連れて来た。いや、この時六歳。幼女というのが正しい。



「これは…」
「我が娘コルネリアだ」
 次女コルネリアである。
 長女は既に伯父グナエウスの子スキピオ・ナシカに嫁いでいた。
「娘を娶ってもらいたい」
「えっ!」
 グラックスは仰天した。
 それはそのはず。グラックス、この時三十三歳。既に男盛りだ。それに六歳の娘を妻合わせるとは、不釣り合いも甚だしい。
(これは…一体)
 グラックスは、相手の真意を疑い眼差しを向けると、真剣な光が反射して来た。




「閣下、酔狂が過ぎます」
「ははは。何が酔狂かよ」
 本来のスキピオの語調が戻って来た。
「そなたには恩義を蒙った。是非そなたと縁続きになりたい、そう思ったのだ」
 どうやら本気のようだ。ますますグラックスは驚いた。




「でも、娘御はまだ…六歳」
「無論今すぐは無理。成人した暁に輿入れさせてやってくれ給え」
「とは申せ、その時にはそれがしも随分歳を重ねておりますれば」
 グラックスは苦笑した。
 十五歳で結婚するとしても、新郎グラックスは四十を幾つか越えている。




「よい」
 スキピオは言った。
「年齢の差などさして問題ではない。コルネリアも成人した暁にはきっと得心しよう。我が父はなんと良い夫を約束してくれたのか、と。良き夫か否か、それが大事なのだ」
 そういって、スキピオは愛娘の顔を見詰めた。
 それは、娘の華燭の典に自身立ち会えないことを示唆していた。
 恐らく、健康がそれを許さないことを悟っていたものであろう。


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