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ハンニバルその後−野原に散る(さらにさらに続き)
「貴様…毒を仕込んだな」
マニアケス、白い眼光を放った。
「ははは」
プルシアス王子は笑った。
「そなたは一騎当千の強者。まともに相対しては敵わぬゆえ鏃に毒を塗り込ませた」
悪びれずに仕込みを明かした。
ハンニバル逮捕最大の障害を彼女と見て、入念に準備を施して来た。かすり傷でも致命傷に至る毒人参である。ギリシア世界で多用される毒物であった。
「おのれ…」
膝付き立ち上がろうとした彼女であったが、花の中につんのめった。
「マニアケス!」
ハンニバルが抱き起こした時には、彼女の頬は真っ白になっていた。
「閣下…不覚をとりました。もう、お守りすること叶いませぬ…」
「もうよい」
「先の総督様に申し訳なく…」
彼女は先のイベリア総督ハシュドゥルバルへの愛を貫くため、半生をバルカ家への忠誠に身を捧げて来た。ローマに敗れた後は、ハンニバルの守護に心を砕いて来た。
「もうよい。もうよいのだ」
ハンニバルはマニアケスを強く抱きしめた。
「よく今日まで私と共に歩んでくれた」
「閣下…」
マニアケスの瞳が僅かに広がった。
「心強かったぞ」
ハンニバルはマニアケスの瞳にそう語りかけた。
「閣下…」
「そなたのある御蔭で余はこうして生きて来ることが出来た。心強かったぞ」
彼は万感の一端をそう表現した。
表現出来る言葉はなかった。普通の男女の如き『愛していた』『好きだった』というのでもない。君主が忠臣に与える『よくやった』『でかした』というのでもない。
無上の人間愛を捧げてくれた人に対する、最高の賛辞謝辞を与えてやりたかった。
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