新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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金貸し-序章2

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 金貸し
 スキピオとダイファントスは、長城を抜け、アテネの街に辿り着くと、さらに歩いて街の中心アゴラに入った。
 アゴラとは、本来「広場」を意味するが、国の政治・経済の中心を指す言葉でもあった。というのは、アゴラには、国を機能させる全てが取り揃えられていたからだ。民会議場、裁判所、外国使節を迎える迎賓館、市場など、人が生活を営む必要な全てが、ぎっしりと箱庭よろしく詰め込まれていた。
 そのため、ここには多くの人が集まってきていた。演説する政治家とそれを取り巻く聴衆、告発状等の代書屋、城外の畑で取れた農作物を売る農民などなど。
 その大変な喧騒に、スキピオは目を丸くした。
「にぎやかですね」
「そりゃそうだ。アテネはギリシア第一のポリス(都市国家)だぜ。ここにない物は、他のポリスにゃないだろうな」
 とある一角にさしかかると、ダイファントスは急に体を縮みこませて囁いた。
「おい、ここは早く通り過ぎようぜ」
 スキピオが見ると、ダイファントスは、片手で顔を覆い、その大きな図体をスキピオの体に隠すようにした。
「どうしたんです?」
「借金取りがいるんだ」
「そんなことしても意味ないでしょう。そんな大きい体なのに…」
 スキピオは笑った。
 大男のダイファントスが、小柄な少年スキピオの背に隠れるはずもなく、その格好はかえって奇妙であり滑稽ですらあった。
「やかましい。いいから、とっとと歩け」
 アゴラの一角に、両替商が軒を連ねている。今日風に言えば金融街だ。
 金の生産が活発になり、物々交換から貨幣経済に本格的に移行し始めた頃で、金融業が急速に発展した時代でもある。
 両替商は、他国の金貨をアテネの金貨と交換する比率を決めたり、預金を受けたりする、まさしく今日の銀行の役割を担っていた。
 が、その多くはダイファントスの債権者だ。今日風に言えば、彼は多重債務者だった。

「おい、ダイファントスじゃねぇか!素通りとは、つれないねぇ!」
 早速、背中から声が飛んできた。
(ち、目ざとい野郎だ)
 ダイファントスは舌打ちしたが、気付かない方がおかしい。
 ダイファントスは、一呼吸すると、溢れんばかりの愛想笑いをつくって振り向いた。
 中年の小太り男が、にこにこしている。
「やあ、キットス。今、帰ってきたところさ。パシオンの旦那は元気かい」
「商売繁盛で旦那様は元気そのものさ」
 パシオンとは、アテネの有名な両替商だ。キットスはその番頭を務めるが、身分は奴隷である。
 当時、奴隷といっても様々で、今日の勤労者と変わりない者も大勢いた。特に有能な者は主人から厚遇され、解放されることも多々あった。パシオン自身も、もとは奴隷で、解放されて自ら両替商を始め、今日の地位を築いたのであった。
「それより、おめえさんの稼業の方はどうなんだい?」
 キットスは、台にひじをついて身を乗り出した。
「こちとらも、おかげさまで大活躍さ。敵の仕官を何十人も討ち取ったよ」
 血なまぐさい話だ。が、それが傭兵稼業。敵を殺し、その財を奪うことで彼らは潤っているのだ。
「ほうほう。たんまり稼いだかい」
「ああ、たんまり稼いだよ」
「そうかい。じゃあ返済してくれよ」
 キットスは待ってましたとばかりに帳簿を取り出した。
 おそらく、多くの債務者たちが、ここで通せんぼを食らっているに違いなかった。
「ほれ、お前さんには、たまりにたまった一千ドラクマの貸しがある」
 一千ドラクマ。今日でいえば五・六百万円ぐらいの価値であろうか。
「こっちはな、返済のないまま、お前さんの戦死の報が入るんじゃないかとびくびくしているんだ」
 キットスは、にやりとした。
 確かに、戦闘を請け負う傭兵稼業のこと、いつ死んでもおかしくない。そうなると貸主は取りっぱぐれてしまう。
 ダイファントスは苦笑した。
「嫌なこというなぁ。そう簡単には死なないよ」
「じゃあ払ってくれよ。死ぬ前に」
「悪いな。俺は傭兵。隊長から給金を貰ってる身分さ。まだ、隊長から給金をもらってないんだ。受け取ったら、真っ先に駆けつけるさ」
「本当かよ。そんなこと言って、返済したためしがないじゃないかよ」
 キットスはうんざりした顔になった。
「いや、大丈夫さ、シチリアででっかい戦利品を獲たんだ」
「ほう」
「シラクサ(シチリア島の都市国家)近郊の戦闘で、こんなでっかい金塊をだな…」
 それから、ダイファントスの口からは、雄大な冒険物語が展開された。大きな手振り身振り、本当に彼が大活躍して一攫千金を実現・・・・・・・・・・・・・・・・・したみたいだ。
 彼にはその才能があるのだろう。そばにいるスキピオが呆れるほどの舌の回転で、商人を遮二無二納得させた。
「だからさ、利息をどーんとつけて返済してやるよ」
「楽しみだな。早く返済してくれよ。返済しないと、奴隷にしちまうぜ」
 この時代、破産制度はない。従って、借財を返済できないときは、体で、即ち奴隷になって返済するしかない。最後の担保は債務者自身ということだ。

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秋田にはアゴラ広場という名前の広場があります。
直訳すると「広場広場」…。

2008/7/23(水) 午後 8:05 M

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いらっしゃいませ。

そうですね。そういう例はいくつか散見されますね

意味を十分に理解していないと思われることはよくあります
この前某テレビ番組を見ていると、アゴラを「市場」と訳しており、アテネの鮮魚市場を案内している様子に唖然としてしまいました。文献をちらと調べれば明らかなのに…

2008/7/24(木) 午前 7:51 Dragon

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ギリシャ時代のパシオンは 後のローマ時代のシャイロックの祖先かな?高利貸しの草分けのようにかんじましたが。中世ヨーロッパの文芸復興期に書かれた「ベニスの商人」に出てくる高利貸しのシャイロックの祖先かな?興味あります。お元気でね!!

2009/4/9(木) 午後 11:39 HIROKYO

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HIROKYO様、おはようございます
面白いご指摘です

パシオンは実在の人物です。
記録によれば真面目な人物だったようで
奴隷身分から解放されアテネ市民となり、大銀行の頭取の如き存在となります

シャイロックはユダヤの民
パシオンはフェニキア人(現レバノン周辺)。フェニキア人は、ユダヤ人の親戚みたいなものですから、ご指摘の通りかもしれませんね
ただ、パシオンについては、悪評は記録されていません。
もっとも、あの「ヴェニスの商人」の書かれた時代は、ユダヤの民に対する偏見の凄まじい時代ですからね。
大人になって、シャイロックが少し気の毒に思えました

2009/4/10(金) 午前 7:48 Dragon


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