新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 <これまでのあらすじ>
 10.9掲載の「アテネ海上同盟−カドメイアの章14」の冒頭をご覧ください。


アテネ海上同盟(続き)
その後にカロンが登壇した。常と同じく、その顔には、感情の波一つない穏やかさを湛えている。その様子が周囲に落ち着きを与える。
「諸君は、ようやく目覚める時がやってきたのです」
 明瞭な声だった。
 親スパルタ派の市民も黙っている。いや、まずはお手並み拝見という、意地悪い目を光らせていた。
「諸君は、三十年前にスパルタとの大戦に敗れた後、自らの国を小さいものと考えるようになった。が、それは全く違う」
 カロンは両手を大きく広げた。
「広く世界に目を転じても、アテネほど海を勇敢に進んだ国はない。アテネほど強力な海軍を持つ国もない。何よりも、アテネほどギリシア世界の文化と英知を高めた国はない。諸君は、その偉大な国の民なのだ、アテネは大いなる国なのである」
 市民の割れんばかりの拍手が沸きあがった。
 他国人より、これほどの賛辞を浴びたのはスパルタとの戦いに敗れた時(紀元前404年)から久しくなかったことだ。人々は心地よい陶酔に身を委ねていた。
「諸君は、他国に従属すべき運命を背負った国の民ではない。諸国を指導し、このギリシアに新たな光を与える使命を与えられた偉大な民なのだ!」
 再び、わあっと歓声が上がった。親スパルタ派の市民も沈黙した。
「今こそ、アテネは諸国の旗頭となり、我らと同盟を結び、ギリシアから抑圧と隷従を一掃し、自由と独立を与えるとき。スパルタを倒すときは今なのだ!」
 市民の間から、さらに大きな歓声が上がった。
「そうだ!よく言った!」「今こそ、我がアテネがギリシア諸国の盟主になるべき!」
「諸国を圧迫するスパルタを打倒せよ!」
 人々が静まるのを待って、カリストラトスが立ち上がった。
「我が国が盟主になるべきだとのテバイの使節の趣はよく分かった。アテネ市民として謝意を表したい。しかし、スパルタはなお強大。今、貴国と同盟して、本当にスパルタと対抗できるのか?」
「何を恐れることがあるのです?アテネには世界最強の海軍があり、我が国には精強な騎兵と歩兵が控えております。両国が力を合わせれば、ギリシア全土に平和をもたらすことも難事ではないと考えます」
 カロンの大言壮語にも似た言葉に、カリストラトスは苦笑した。
「貴国は独立したばかり。失礼だが、我が国の覇業に力となれるのか?」
「数千の軍がいつでも出動できる態勢を整えております。さらに、偉大な指揮官エパミノンダスとペロピダスが采配を取るのです。これに貴国の強力な海軍があるというのに、何を恐れるというのです?従属の屈辱を脱し、独立の栄光が目前にあるというのに、アテネの市民は一体何を迷うというのです?」
 市民は一斉に、カロンに賛成する声を上げた。一部の親スパルタ派市民は反対を叫んだが、それは拍手と歓声の中にかき消された。
 こうして、アテネの民会は、スパルタとの同盟を解消し、テバイとの同盟締結を決議したのであった。
 
 翌日、カロンとカブリアスの間で、アテネを盟主とする新たな同盟が締結された。後にエーゲ海上の多数の島国が続いて参加したことから、『アテネ海上同盟』と呼ばれた。
 アテネ市民は大いに沸いた。
「これで再びアテネに栄光が取り戻せるぞ」
「スパルタなど怖るるに足りぬ」
 その夜、カロンとスキピオ、そして、ダイファントスはティモテオス邸で盛大な歓迎を受けていた。
「今日はめでたい日だ。我が国にとって、いや、ギリシア人にとって吉日といえよう」
 ティモテオスはいたって上機嫌だ。
 彼の持論は、テバイなどの諸国と手を結んでスパルタを打倒すること。今日は、その第一歩だったからだ。
「いや、これもティモテオス殿のお骨折りのおかげ。テバイの民を代表して、心より感謝申し上げる」
 カロンは丁寧に礼をいった。
 事実、ティモテオスは、今回の同盟締結に至るまで、有力者の間を走り、同盟締結のための世論形成に大変な努力を傾けてきた。
「ははは。別に、テバイの利益のために懸命になったわけではありません。貴国との同盟が、全てのギリシアの民になると信じてのこと。礼には及びませぬ」
 ひとしきり、カロンとティモテオスのやり取りがあった後、スキピオが、
「閣下、ヘレネ殿から手紙を預かってまいりました」といって手紙を懐から取り出し、ティモテオスに手渡した。
「そうか」
 しかし、ティモテオス、開けずにそのまま手紙を懐に入れた。
(すぐに封を開けると思っていたのに…)
 スキピオは意外に思った。
「お読みになられないのですか?」
「手紙を書くぐらいなのだから元気なのだろう。それでよし」
 と自分に言い聞かせるようにいった。
 彼も人の親。愛娘が異国に去って寂しくないわけがない。しかし、彼は、ヘレネがテバイに向けて旅立つときに、名家の子息と結婚して家門を栄えさせるという普通の幸せを密かに諦めていた。
 スキピオは同情を禁じえなかった。そのため、彼は明るい顔で、彼女の近況を伝えた。
 スキピオは雄弁。ヘレネが、カドメイア解放の際に、エパミノンダスを守って付き従っていた段のくだりになると、大いに感心したように頷いた。
「ほう。我が娘ながら肝が据わっておることよ」
「以降、ヘレネ殿は、エパミノンダス殿の秘書官として御活躍なさっておられます」
 そう。エパミノンダスは、ヘレネの智謀を活用すべく、側に置いていた。
「エパミノンダス殿の秘書官とは大それたことだな。ご迷惑にならなければよいが…」
 ティモテオス、小さく笑った。

 その後、宴は賑やかに続いた。
 ダイファントスは、黙って杯を口に運んでいたが、やがて、そっと立った。そのまま玄関に向かうところを、スキピオが追いついてきた。
「もうお帰りになられるのですか?」
 ダイファントスは振り向いた。
「ここは俺様には場違いさ。じゃあな」
 と、そそくさと出ていこうとする。
「ダイファントス殿」
「なんだ」
「また…また、一緒に働きましょう」
 ダイファントスはにやりと笑った。
「ああ、勿論だ。じゃあな、達者でやれよ」
「ダイファントス殿も」
 ダイファントスの姿はアテネの街に消えていった。彼は再び傭兵の生活に戻っていったのだ。

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次にダイファントス殿に会えるのはいつなんでしょうね〜(>_<)

2008/11/5(水) 午後 2:35 らんらん

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重要な局面になります。

彼の力が必要になるとき、ということです

2008/11/6(木) 午前 7:49 Dragon


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