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<これまでのあらすじ>
10.9掲載の「アテネ海上同盟−カドメイアの章14」の冒頭をご覧ください。
アゲシラオスとアンタルキダス
アテネとテバイの同盟、そして、アテネ海上同盟の成立は、スパルタの都にも直ちに知らされた。
「なにっ!アテネがわが国との同盟を解消して、テバイと同盟を結んだだと!」
アゲシラオス王は驚愕のあまり、顔から血の気が引き、さっと白くなった。
「はっ!アテネを盟主とする海上同盟なるものを設立し、エーゲ海の諸国が続々加盟しておる様子」
王は、今度は、赫怒して真っ赤になった。
「許せん!アテネめ、先の大戦で敗れたときの我が国の恩を忘れおって」
先の大戦でアテネが降伏したとき、スパルタの同盟国の多くはアテネ国家の破壊を主張した。というのも、アテネは、戦争中、ギリシア世界征服の野望を剥き出しにし、多数の国を滅ぼし、市民を奴隷として連れ去り、あまつさえ大虐殺するなどしたため、諸国の人々の怨みは骨髄に達していたからである。
しかし、スパルタは、それを抑えてアテネ国家の存続を認めた。アテネ国家が、かつてペルシアの侵略を防いだ功を慮ったのである。にもかかわらず、再び刃を向けてきた。
アゲシラオスの怒りはそれに基づく。
「お怒りはご尤もなれど、アテネの動きにも一理はありますぞ」
横に控えていた監督官アンタルキダスが重々しくいった。
「どういう意味だ?」
アゲシラオスはじろりと睨んだ。
「はい。アテネの国論は、つい先ごろまでわが国との同盟堅持で固まっておりました。しかるに、スフォドリアスを赦免したことにより、わが国に対する感情が一挙に悪化し、かかる結果となったのでございます」
それは、スフォドリアス赦免を決定したアゲシラオスを暗に非難するものであった。
王はむっとした。
(小賢しいやつめ…)
「無罪放免ではない。特赦だ。やつの行為を認めたわけではない」
「そのような理屈、他国に通じましょうや。アテネだけではありませんぞ。今回の事を苦々しく思っているのは。他の同盟国もなんと道義に外れた行いかと非難して…」
そこまで言った時、アゲシラオスは手を振って遮った。
彼も、内心後ろめたく感じる部分があるからこそ、聞きたくはなかった。息子アルキダモスへの情に、つい動かされてしまったとの淡い悔いが、ずっと残っていたのだ。
その後悔は、怒声となって口をついた。
「それ以上申すな!」
「されど…」
「くどい!」
王は、そういい残すと、あらあらと王宮の奥に消えていった。
アンタルキダスは、その後姿を、冷ややかに見つめていた。
(王よ、これで終わりと思ったら大間違いですぞ)
そう。表面上取り繕ってはいるが、国王アゲシラオスと監督官アンタルキダスは長年対立関係にあった。
アンタルキダスはスパルタの大貴族レオンの息子。若き頃は将軍として活躍した。が、彼の名前は、策謀家・外交官として知られている。
紀元前396年。即位したばかりのアゲシラオス二世は、ギリシア諸国の兵を率いてペルシアに進攻した。戦いは連戦連勝。ペルシアの小アジア総督府の置かれたサルディスでの戦いにも圧勝し、このままペルシア本国に攻め込む勢いであった。
それに危機感を覚えたのがスパルタ本国の長老たちであった。彼らはスパルタの国制、即ち、軍事以外の国政を監督官や長老が決定する体制を絶対としていた。
『もし、このままアゲシラオスが勝利を重ねれば、絶対的な英雄になってしまう。超越的存在になって我らの手の届かぬ権力を握るやも知れん』
長老たちが額をつき合わせて善後策を協議しているところに、将軍であった若きアンタルキダスが進言した。
『只今、コリントスがわれ等に敵意を示しております。速やかにギリシア本土に退却せよと命令すれば、いかに王とはいえ拒むことはできますまい』
『それはよい』
長老会は、命令を伝える使者をアゲシラオスの陣に送った。
命令を聞いた若きアゲシラオス王は赫怒した。
『なんだと!我が軍は勝利に勝利を重ねている!なのに退却せよと!』
しかし、彼の許にやってきた使者は、
『ギリシア本土での戦いに備えて退却せよとの命令です』と冷ややかに本国政府の命令を伝えるだけであった。
アゲシラオスは聡明な人物。調べずとも、すぐに見抜いた。
『ああ。嫉妬に陰謀。我がギリシア民族よ、何たる害悪を考え出したのか!』
アゲシラオスは嘆息した。
が、彼は、命令を奉じて帰国し、本土で待ち構えるコリントス軍を撃破した。ために凱旋してきた彼とその軍団は、スパルタの人々に歓呼をもって迎えられた。アゲシラオス王の威名は、ギリシア世界に轟いた。
威望高まるアゲシラオスに対する長老たちの牽制は、その後も続いた。
が、市民たちの王を見る目はまるで違った。
『機が熟せば、いずれ再びペルシアに攻め込み、ギリシア人を解放なされるのであろう』
そういう期待が、アゲシラオス王の一身に集まっていった。
(これはまずい)
アンタルキダスは焦燥を深めた。そして考えた。
『ペルシアとの対立が続く以上、アゲシラオス王は、いずれ再び出征し、巨大な力を得る可能性がある』
そこで、アンタルキダスは、紀元前387年、ペルシア王アルタクセルクセス二世と会見し、アゲシラオスの頭越しに休戦協定を結び、和睦してしまった。この協定は、彼の名をとり、アンタルキダス条約と呼ばれる。
この条約により、スパルタのギリシア世界での覇権が承認されたが、アゲシラオスが対ペルシア戦で解放した小アジア沿岸諸国は、ペルシアの軍門に降ることになった。
『事もあろうに、同胞を売って覇権を買うとは何事か』
アゲシラオスは激しく怒った。
この時から、アゲシラオスとアンタルキダスの間には確執が生じた。その確執が長い年月を経て、再び、スパルタ国家の命運に作用し始めていた。
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お久しぶりです。(^o^)
ほほ〜、王様もお膝元に思わぬ敵を抱えてたわけですね....
これがどう転ぶのか....
人間の嫉妬ってほんと、厄介なものですね(>_<)
2009/2/9(月) 午後 2:29
らんらんさん、ようこそ
そうです。当時の文献を読むに、
たいてい、身近に政敵がいたようでして
このアンタルキダスとアゲシラオスの不仲は、当時有名でした。
2009/2/10(火) 午前 8:08