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<これまでのあらすじ>
愛する人アウラをスパルタ兵に殺されたスキピオは、打倒スパルタを誓い、エパミノンダスらと行動を共にし、独裁者アルキアスの支配するテバイに向かう。
独裁者アルキアス一派を打倒したエパミノンダスらは、テバイの独立回復に成功する。
テバイの叛旗に怒ったスパルタは、クレオンブロトス王率いる軍勢をもってテバイに攻め込んでくる。が、エパミノンダスは、アテネのカブリアスと連携し、撃退に成功した。
スパルタの覇権が動揺するのを恐れたアゲシラオス王は、自ら大軍を率い、火の如き勢いで進みテバイを陥落寸前に追い込んだ。が、テバイは頑強に抵抗し、攻め落とせないアゲシラオスは、転じて隣国のテスピアイを占領し、ここを拠点にテバイ攻略を窺う。が、スパルタ軍の背後に大きな敵影が現れる。
※関係地図は、10.14掲載の「テバイ攻め−上−カドメイアの章19」にあります。
カブリアスの機略
時を少し遡る。スパルタ軍が大挙テバイ領内に進攻を開始した時である。
将軍カブリアスは、評議会議場の控え室で、エパミノンダスの書付を見ていた。
アテネの将軍カブリアス。
彼は、名家に生まれ何不自由のない幼少期を過ごしたが、その安楽に暮らす日常に飽き足らず、傭兵に身を投じ、どんどんのし上がって大軍団を率いる傭兵隊長にまでなった。
彼の率いる軍団は、その勇猛な戦いぶりから、ギリシア世界だけにとどまらず、オリエント世界にも名を轟かせた。ペルシアやエジプトなど、彼の軍団は引っ張りだこだ。
その彼が唸っていた。
「さすがエパミノンダス、俺と同じ意見か」
「どうしました?」
「これをみるがよい」
副官アルキアスに書付を見せた。
アルキアスとは、あのテバイのアルキアスの親族である。
アルキアスは、かつてペロピダスたちの蜂起の計画を知って、いち早くテバイのアルキアスに知らせた男だ。が、後で、使いにやった者から、テバイのアルキアスが享楽を急ぐあまり書状を見なかったと聞くと、思わず吐き捨てた。
「死んで当然だな。わが親族ながら何たる醜態」
彼は、テバイのアルキアス政権崩壊の時から、カブリアスに勧めて親テバイ政策に舵を取るように進言した。
カブリアスは驚いた。
「エパミノンダスたちは、お前の一族の仇ではないか」
「あそこまでの馬鹿だったとは思いませんでした。エパミノンダスたちが手を下さなくとも、いずれくだらぬことで死んだことでしょう。それより大事なのはアテネの国益。さらには閣下の御未来です」
「ほう。テバイと手を結べば道が開けるか」
「はい。テバイの叛乱に対して、必ずスパルタが兵を起こします。テバイはギリシアの南部と北部を結ぶ要衝。ここを放置して天下の覇者たりえませんから」
「ふむ」
「テバイに攻め込めば、我らはスパルタ軍の背後を衝くことができます。そのスパルタを破りアテネが天下の覇者となるのです。ならば、閣下は大功労者。アテネの第一人者となることができましょう」
「なるほど。それはよい」
以降、カブリアスは、テバイ支援に乗り出した。エパミノンダスの求めに応じて、援軍を積極的に派遣したのも、テバイとの同盟締結に積極的に動いたのも、そのためである。
もちろん、副官アルキアスも自身の利を計算していた。
(カブリアスが天下第一の覇座を占めれば、私にもその余慶は大きかろう。カブリアスの後を襲って将軍になることも夢ではない)
従って、今回のアゲシラオスのテバイ攻めは、カブリアス、そしてアルキアスにとって待ちに待った好機だったのだ。
アルキアスはエパミノンダスの書状を見ると、
『今こそ好機。よろしくスパルタの背後を衝くべし』とあった。
「この書付のどこに感心いたしましたので?」
「やつが只者でないのはそのあとだ」
「何ですか?」
「メガラを衝けとある」
そういわれて、アルキアスは再び書面に目を落とした。
「確かにメガラを、とありますな…。なにゆえ、メガラなのでしょう?テバイ領内に攻め込んでいるスパルタ軍の背後ではなく…。テバイはスパルタの猛攻を受けているはず」
カブリアス、にやりとした。
「そこだよ。お前は政略家ではあるが戦略家ではない」
「私に戦略の才があれば、閣下にお仕えしておりませんよ」
アルキアス、仏頂面になった。
「ハハハ、それもそうだな。いや、普通の者ならば、そう考える。が、それは敵もそう考えるということだ。うかとスパルタ軍の背後を衝けば、アゲシラオスほどの男。必ずや備えをしているに相違ない」
「確かに…」
「が、メガラはスパルタ軍の退路にあたる。ここが我らの手に落ちれば、背後を衝かれるのと同じことになる。しかも、我らにはそれほどの被害はない」
「しかし、エレウシス近郊の砦をスパルタ軍が守っています。メガラを攻める道筋にございます。にわかにメガラに攻め入ることはできないと思われますが…」
カブリアスは哄笑した。
「ハハハ。あれは擬兵だ。多分、メガラ兵が数百で守備しているだけであろう」
さすがカブリアス、とっくに看破していたようだ。
「なんと、そういうことでございましたか」
「そうさ。我らを釘付けにする作戦さ。そこで、敵の裏をかいてやつらを蹴散らし、メガラを攻略すれば、アゲシラオスはボイオティアで立ち往生。運よく奴を捕えることができれば、スパルタの天下をそのまま頂戴できるのだ」
「なるほど」
謀略に長けたアルキアスも、地平を見渡した大きな戦略眼においては、到底カブリアスの足元にも及ばない。彼は、カブリアスの眼力に大きく感じ入った。
「わかったら直ちに軍勢を動員しろ。アゲシラオスを討ち取って、アテネの天下を取戻すのだ」
「ははっ!」
こうして、直ちに七千の兵が動員された。カブリアスは、直ちに進撃を開始し、エレウシス近郊の砦を守備するスパルタの同盟国メガラ軍を攻撃した。
メガラ軍はアテネの大軍の猛攻を支えきれず、あっという間に蹴散らされてしまった。アテネ軍は、敗走するメガラ勢を追撃し、そのまま国境を越えてメガラを包囲した。
が、古来メガラとアテネは犬猿関係にある。メガラ勢は必死に抵抗した。
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