新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 <これまでのあらすじ>
 10.17掲載の「カブリアスの機略−カドメイアの章22」の冒頭をご覧ください。

 アゲシラオス倒れる
 アテネの大軍が潮を引くように退却するのを見て、アゲシラオスは喜んだ。
「おお!神のご加護よ!」
 そこにアンタルキダスがやってきた。
「どうだ。わが軍の被害は?」
「は。アテネ軍の挟み撃ちで被害は甚大。多くの死傷者が出ております」
「…そうか」
 アゲシラオスは沈痛な面持ちになった。
「負傷者には充分な手当てをしてやれ。そして、兵も連戦で疲れていよう。ここで数日休息を与え、それから帰国することにしよう」
「はい。かしこまりました」
 その時、アゲシラオスは、何か思い出したような顔をした。
「そういえば、ここにはアフロディテを祀る神殿があったな」
 アフロディテとは美の女神、ヴィーナスのことである。
「はい。ございます」
「幸運にもアテネ軍は退却した。お礼を兼ねて参詣してこようと思う」
「それはようございます。是非そうなされませ」
 
 翌日、アゲシラオスは、パウサニアスそのほか数人を供に、メガラのアクロポリスにあるアフロディテ神殿に参拝した。
 その帰りの道々、王はパウサニアスとこもごもと会話した。
「どうであった。このたびの戦いは?そなたにとって初陣であったわけだが」
「は。反省することばかりで…」
「ほう。何を反省した」
「は。一軍の指揮官として、常に全体に気を配り、速やかに行動できるようにしなければならないところ、つい自らの戦闘に気を取られ、部隊全体に気を配ることが十分にできませんでした」
「ははは。いきなりは無理であろう。それができれば名将ではないか」
「わたくしは、ラケダイモン国家のため、王の恩に報いるためにも、名将になりとうございます」
 アゲシラオス、ひたむきなパウサニアスの顔を見て喜んだ。
「その心意気大いに結構だ。ラケダイモンの戦士は、そうでなくてはならん。ははは…」
 その高笑いが、突然中断した。
 と思うと、アゲシラオスの体が、支えを失ったかのように崩れ、その場に倒れた。
 パウサニアス、一瞬何が起こったのか理解できなかった。
 我に返ったように驚いた彼は、慌てて王の体を抱き起こすと、「大王、どうなされたのです!大王!」と懸命に呼びかけた。
 が、反応がない。アゲシラオスは気を失っていた。
 パウサニアスは蒼白となった。
「医者を呼べ!早く!」
 アクロポリスは大騒ぎになった。
 アゲシラオスは、迎賓館に運び込まれ、直ちに医師が呼ばれた。
 医師は、寝台に横たわる王の体のあちこちを見て、診察していたが、ある箇所をみて
「これは…」と絶句した。
 くるぶしが大きく腫れ上がっていた。
「王には、何か御持病でも?」と監督官アンタルキダスに訊いた。
「足に御持病がある。時折お痛みになるらしい」
 アゲシラオスの足には障害があり、ために片足を僅かに引きずるように歩行していた。が、彼の快活な性格、勇猛な行動力により、誰も気に留めないほどであった。しかし、その障害は、時折、彼を密かに苦しめていたようだ。
「うーむ。どうやら悪い血が溜まっているようじゃ。切開して排出しよう」
 医師はこともなげにいった。
「大丈夫ですか?」
 アンタルキダス、不安になった。
 この時代のギリシアは、外科手術が発達しており、切開術も珍しくはなかった。が、王に万が一あれば、スパルタ国家の安危に関わる。
「このままだと、かえって命に関わりますぞ」
 王は苦しげな息をして、うなっていた。
 アンタルキダスは迷った。本来、かかる重大事は、監督官全員の合議で決するところだが、従軍している監督官は彼一人。要するに、彼は責任を負うのが嫌だったのだ。
 が、ためらっている暇はない。彼はやむなく、
「お願いいたす。すぐに治療してください」といった。
 医師は、助手にてきぱき指示をして、道具を揃えると、メスを受け取った。そして、ためらうことなく、王のくるぶしを切開した。すると、みるみる血が溢れ出した。
 輸血の技法は勿論ない。そのため、横たわる王の顔はどんどん蒼くなっていく。
 アンタルキダスも真っ青になった。
「だ、大丈夫ですか。本当に」
「大丈夫じゃ。治療中、口出しなさるな」
 しかし、血はなかなか止まらない。医師の額にも脂汗が浮かんでくる。
 それから数日間、出血は止まらず、懸命な治療によってようやく止まった。が、多量の出血のためか、王は、意識が朦朧として、体も自由にならない有様。
 スパルタ軍は、王の容態を秘密にし、彼を馬車に乗せて帰国したのであった。
 アゲシラオスは、それから数年、軍務に従事できなかった。それはスパルタの勢力の停滞を意味した。

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時機と言うか....
ここぞという時に柱たる人物が倒れることって
(日本の戦国時代もそうですが)
時代が大きく変わろうとするときにはよくあることだったんですね...

2009/2/26(木) 午後 5:12 らんらん

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そうですね。
彼の持病は記録に残っています。
老齢のアゲシラオスに依存していたところが、スパルタの弱みだったかもしれませんね

2009/2/28(土) 午後 0:45 Dragon


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