新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ナクソス島沖の海戦(続き) 
 カブリアス率いるアテネ艦隊は、ピレウス港を出ると、直ちに南東に針路をとり、キュクラデス諸島に向かった。
 この海域は、今日、世界的な観光地でもある。その輝く海、大小さまざまに浮かぶ島の間を縫って、アテネの大艦隊が進んでいく。
 カブリアス、旗艦の甲板の縁に立って、飽くことなく、その海を見つめていた。
「閣下、何をじっと見ているのです」
 見習い将校のフォキオンが近寄ってきた。
「俺は海が好きでな」
「私も好きです」
「そうか」
 カブリアスは、フォキオンの頭をぐいぐい撫でた。
 親戚の子どもを可愛がっているようだ。
「いいかフォキオン。この海があるから、アテネは繁栄しているし、大帝国ペルシアの侵略を退けることもできた。そして、今また、この海に向かって雄飛しようとしている。感慨深くもなるというものさ」
 フォキオンは頷いた。難しいことはまだ分からない。しかし、この海という巨大な存在が、アテネを偉大な国家にしているということは、よく分かった。
 その時だ。先頭を進む艦船から声が上がった。
「前方に敵艦隊発見!」
 カブリアスは、待っていましたとばかり、にやりとした。
 約束された将来を顧みず、安定した生活を捨て傭兵となったのは、まさにこの瞬間、この興奮のためだ。戦いにおける興奮が彼を、名家の子弟たる生涯に安住させなかった。
 そう。彼は、乱世に生まれる、戦を好む外道であった。が、こういう外道がこの時代には必要とされたのだ。
「現れたようだな。いくぞ、フォキオン!」
「はいっ!」
 スパルタ艦隊の船影が、次第にはっきりと近づいてくる。兵力はほぼ互角。
 
スパルタ艦隊の司令官ポロスも、冷静沈着な指揮ぶりで定評のある男。デイノンが推薦したのもそのため。
「アテネ艦隊のお出ましだな。こだびこそは、カブリアスに煮え湯を呑ませてやろうぞ」
「おう」
 副司令官ニコロコスも力強く応じた。ここ数年、カブリアスとの戦いで幾度となく苦杯を呑み、スパルタの将兵の間に鬱憤がたまっていた。
「うん、あれは!」
 ニコロコスが叫んだ。
「アテネ艦隊が横一列になって向かってきますぞ、ポロス殿」
 ポロスは鼻で笑った。
「我らを包み込んで、包囲撃滅しようという肚であろう。が、そうはいかん。我らは縦一列になるのだ。合図しろ!」
 スパルタ艦隊は縦一列に隊形を変えていく。
「よーし!このままアテネ艦隊に突入だ。一気に敵の陣形を崩すのだ!」
 スパルタ艦隊が全速力で漕ぎ始め、アテネ艦隊に迫っていく。
 アテネ艦隊の横一列の陣形は敵を包囲するのに適しているが、縦の攻撃に弱いのが弱点。突き崩され背後に回れると、逆に包囲撃滅される虞があるからだ。
 しかし、カブリアスは、手を打って笑っていた。
「わはははは。思う壺だな。さあ、敵に道を開けてやれ!いつもの訓練の通りにな!」
 アテネ艦隊は、まず扇形になり、包囲隊形をとるかに見えた。
しかし、それは違った。左右に分かれ始めた。
動力が人力と風力に限られる中、隊列を自在に変えるには高度な操艦術を要したが、カブリアス麾下の海軍は、これを繰り返し練習している。従って、お手の物だった。
 ポロスは慌てた。このままでは攻撃が空を打つばかりか、左右から挟みこまれてしまう。
「いかん。敵の陣形が変わる前に一気に突っ込め!突き崩すのだ!」
 が、左右の隊列に分かれたアテネ艦隊は、縦一列に突き進んでくるスパルタ艦隊をあざ笑うかのように、きれいに二列となって、左右からスパルタ艦隊を挟んだ。
「よーし!今だ!撃て!」
 舷側には弓兵がずらりと並んでいた。カブリアスの命令と同時に、無数の矢がスパルタの軍船めがけて飛んでいった。
「うわ」「ぎゃっ」
 雨のように降り注ぐ矢に、スパルタ兵は逃げ隠れもできず、ばたばた倒れた。艦上は逃げ惑う兵で阿鼻叫喚となった。矢は、勇者と惰者の区別なく突き立った。
「よしっ!火矢を放て!」
 アテネの弓兵たちは、たっぷりと油を含んだ鏃に点火すると、ぶうんと放った。
 今度は無数の火矢がスパルタ艦隊を襲った。
 火矢が突き立った甲板や帆から、めらめらと炎が上がった。
「落ち着け!まず火を消すのだ!」
「持ち場に戻れ!」
 ポロスやニコロコスの必死に怒鳴る声も、喚声と火勢にかき消された。指揮命令が届かなくなっては、もはやどうしようもない。
 船全体が炎に包まれると、あちこちで逃げ場を失った兵が海に飛び込んだ。哀れ海中に沈み命を落とす者、運よく助かっても、海上にはアテネの船が待ち受けている。ほとんどが捕虜となった。
「よし、敵将を生け捕りにせよ!」
 勢いに乗ったアテネ艦隊は、旗艦で指揮するポロスとニコロコスを討ち取るべく、猛然と迫った。が、辛うじてアテネ艦隊の追撃を振り切った。
 こうして、スパルタの企謀はまたもや打ち砕かれた。キュクラデス諸島からスパルタ艦隊の船影は消えたのであった。
 アテネのカブリアスの威名は、ますます天下に轟くことになった。


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素晴らしいお写真ですね!!!

2007/10/22(月) 午前 5:25 川又まこと

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ええ、そうでしょう。
ただ、残念ながら私の撮ったものではないんですよ。
(著作権には触れませんので、利用させていただいております)
こんな高度な撮影技術があれば、もっと素晴らしいブログにできるのに、と思っております。

2007/10/22(月) 午後 3:13 Dragon

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塩野七海さんのローマ人の物語途中まで読みました。
それ以前のお話。
トロイ、アテネ、デモクリトスなんかは、どの時代なのでしょうかね?

2007/10/22(月) 午後 10:21 待ち人

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ハードカバーの第一巻がアテネ・スパルタの栄えた古典時代に該当しますね。十二表法の起草のため、ローマがアテネに使者を送った等の記述があったはずですよ。
トロイについては、ローマ建国の伝説にかかわってきますが、トロイに焦点を合わせた記載はなかったと思いますけどね。随分前に読んだので、うろ覚えですけど。

2007/10/22(月) 午後 10:59 Dragon


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