新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ティモテオス率いるアテネ艦隊の進路です

 アリュゼイア沖の海戦
 イタカ島東岸の湾内の奥に、スパルタの艦隊が集結していた。
 スパルタ艦隊を率いるはニコロコス。副司令官はポロス。ナクソスの海戦のときと、主従が逆転していた。ニコロコスには指揮官として功を立てる機会を、ポロスにはナクソスの敗戦の雪辱の機会を与えるための人選であったが、この組み合わせは、作戦立案に微妙な影響を与えることになった。
「敵艦隊が現れました。総勢三十隻。指揮官はティモテオス」
 それを聞くと、ニコロコスは満足げに頷いた。
「そうか。かねてより言い渡しておいたとおり、敵艦隊が行き過ぎるまで待機だ」
「ははっ」
 兵が駆け去っていく。
「ふふ。これでアテネ艦隊を撃滅できるぞ」
 ニコロコスがほくそ笑む横で、ポロスが首をかしげていた。
「おかしくないか。僅か三十隻とは。ケルキュラも決してアテネ支持一枚ではない。わがラケダイモン海軍の妨害も予想されるというのに…」
「我らを甘く見ているのだろうよ」
 ニコロコスは何でもないというようにいった。
「しかし…」
「ははは。心配性な奴だな。ナクソスの敗戦がそんなに堪えたか」
 それを言われると、ポロスは何もいえない。
 しかし、あの時、自分も自信満々だったが、カブリアスに粉砕されてしまったのだ。敵を甘く見て遅れを取る轍を踏むわけにはいかない。用心深くならざるを得ない。
(これは決して臆しているわけではない)
 自身、そう言い聞かせると、再び口を開いた。
「もし敵が隠れている我らを発見して攻めてきたら、どうするのだ?」
「この湾は広く複雑な地形だ。それこそ飛んで火に入る夏の虫よ」
確かに、イタカ島の東側は複雑な地形をしており、のこのこ入り込んで来れば、アテネ艦隊はたちまちスパルタ艦隊の包囲攻撃を受けることになる。
「なあに心配するな。背後から攻撃するのだ。敵にどんな策があっても、我らの勝利は疑いない。ははは」
 心配顔のポロスを、ニコロコスは笑い飛ばした。
(それはそうなのだがな…)
 ポロスは不安を拭えなかった。敵は、あのカブリアスも一目置く、海戦の名将ティモテオスなのだ。
 やがて、スパルタ艦隊は動き出した。ティモテオスの艦隊が北上してイタカ島を行過ぎるのを待って背後から襲い掛かる算段。
 
 そのティモテオス率いるアテネ艦隊は、何も気付かないかのように、イタカ島を西に、まっすぐアリュゼイアの港を目指して北東に進んでいる。
 スパルタ艦隊の物見の船が、入り江の影からそれを確認すると、直ちに旗艦のニコロコスに合図を送った。
「ニコロコス提督!合図です!」
 ニコロコス、満面の笑みとなって頷いた。
「よーし。今こそ、忘恩の徒アテネに鉄槌を下す時だ。全艦隊出撃だ!」
 満を持して、スパルタ艦隊が入り江から進み出ていく。
 イタカ島の湾から出て隊列を整えると、
「全速力で漕げ!アテネ艦隊の背後から攻撃だ!」と命令した。
 軍船から伸びる無数の櫂が、一斉に波を?き始めた。
 スパルタ艦隊は、波を蹴立てて、ティモテオス艦隊の背後に接近した。その姿は、ティモテオスの艦からも、次第に大きく映じ始めた。
「閣下!背後にスパルタ艦隊が現れました!およそ六十隻!」
「現れたか」
 ティモテオスの作戦は、副司令官アウトクレス率いる艦隊との挟み撃ち。イタカ島の北の岬で合流することになっていた。従って、そこに辿り着くまではスパルタ艦隊に追いつかれないように逃げなければならない。
「よし、我らも全速力で漕ぐのだ。急げ!」
 ティモテオスの艦隊が全速力で逃げ始めると、スパルタ艦隊も負けじと追いかけ始めた。いきおい漕ぎ手の勝負となった。
 この時代の艦船の動力は、風と漕ぎ手による人力の二つだけ。しかし、穏やかなイオニア海やエーゲ海で風はあてにならない。当然、優秀な漕ぎ手が乗っている艦が速くなる。漕ぎ手は、奴隷であることが多かったが、市民階級である場合もあった。
「アテネ艦隊を逃がすな!追いついて、イオニアの海底の藻屑とするのだ!」
 艦上で、ニコロコスが躍起になって、味方の艦に檄を飛ばした。スパルタは、この作戦のために、全土のペリオイコイ(平民階級)から優秀な漕ぎ手をかき集めていた。
 彼らの士気は極めて高かった。ある約束がスパルタ政府と交わされていたためだ。
「この戦いに勝利すれば、汝らをスパルティアタイ(貴族)に取り立てる」
 俄然、ペリオイコイの漕ぎ手のやる気は高まり、当然、漕ぐ手に力が入った。
 従って、船足は非常に速く、みるみるアテネ艦隊に追いついていく。

 作戦は、常に机上どおりにいくわけではない。いや、むしろ、何らかの齟齬があるのが普通であるといえよう。
 ティモテオスも誤算に気付いていた。アウトクレスの艦隊が現れる前に、敵艦隊に追いつかれることを覚悟しなければならなくなった。
(このまま追いつかれれば、背後に敵を受ける形になる…)
 背後から衝かれては、とても勝負にならない。
 イタカ島北端の岬を過ぎたあたりで、彼は決断した。
「全艦隊反転せよ!反転して、スパルタ艦隊を迎え撃て!」
 ここで迎撃している間に、アウトクレスが敵の背後を衝くのを待つことにしたのだ。
 が、艦の反転には高度な操艦技術が必要だ。時間がかかるし、なにより艦隊の足並みをそろえることが難しい。
 アテネ艦隊が旋回しつつ、あたふたと隊列を整える様子に、ニコロコスは勝利を確信した。
「よし、敵が隊列を揃える前に一挙に突入して殲滅せよ!」
 迫り来るスパルタ艦隊を迎え撃つべく、こわばる顔で楯を構えるアテネ兵が船縁に密集しているのが見えた。
 スパルタの弓兵と投石兵が艦首の舷側にずらりと並んだ。
 弓兵はくんと弦(つる)を引き、投石兵はぶるんぶるんと投石用の紐を回し始めた。
 ニコロコスが剣を抜いて、高く掲げた。
「撃てっ!」
 無数の石と矢がアテネ艦隊の頭上に放たれた。
「わあ!」「ぎゃあ!」
 甲板の上にいたアテネ兵は、身を防ぐ術もなく、ばたばた倒れていく。
 アテネ兵も負けじと石と矢で応戦したが、隊列が整っていないため、散発的な攻撃で、しかも、その多くは命中せず、空しく海中に消えていった。
 そうこうしている間に、スパルタの戦艦がアテネ艦隊の隊列に突入した。
 当時の海戦は、船首で敵の船腹を破壊したり、接近して飛び移って船を分捕ったりすることが主流だった。飛び移れば白兵戦になり、個々の戦闘力の差がものをいう。当時、スパルタ戦士と渡り合える兵はギリシアには存在しなかったから、かかる海戦の形態はスパルタにとって極めて有利であった。
「突っ込め!」
 ニコロコスの怒号が響く。
 それに応じ、ラムダの楯を手に、勇猛なスパルタ戦士がアテネの艦に次々と飛び移って、アテネ兵に喚きかかった。たちまち、洋上で両軍兵士の激闘が展開された。
 アテネの艦船を分捕って雄叫びを上げるスパルタの軍団も現れ始めた。さらには、スパルタの戦艦の突撃で船腹を破壊され、沈み始めるアテネの軍船も現れ始めた。
「それ!分捕れ!撃沈しろ!」
 ニコロコスは、躍り上がるように、采配を振るい続けた。
 スパルタ軍の圧倒的優勢となり、アテネ軍を押しに押した。
 アテネ艦隊も、なんとか反転を終えて、あちこちでスパルタの艦と接近戦を繰り広げている。が、数で遥かに優るスパルタ艦隊が包囲隊形を取り始めた。


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