新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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  重装歩兵(ホプリタイ)です。

 神聖隊
 アリュゼイア沖でアテネ艦隊大勝利。
 それは、海戦の名将ティモテオスの勘が、未だ衰えていないことを天下に証明した。
「先にナクソスで勝利し、今、ケルキュラを奪った。この勝利は大きいぞ」
「そうだ。エーゲ海とイオニア海、いずれも我が海になったも同然」
 アテネ市民は大いに沸いた。
 いや、それ以上に「してやったり」と凱歌を上げていたのは、この遠征を企図したエパミノンダスであったろう。彼のギリシア世界を見渡した遠大な作戦により、テバイは、一兵も損せずにスパルタの侵略を阻止することができたからだ。
 こうして、アテネ・テバイ両国の連携が、スパルタと伍していけることを実証した。ために、アテネとテバイの同盟の絆は、一層強固なものとなっていった。
 スパルタは、その後も、ボイオティアに干渉を試み続け、テバイ軍との間で、小規模な戦闘が断続的に行われた。が、エパミノンダスとペロピダスの巧みな采配で、テバイは悉く勝利を収めた。
ボイオティアにおけるスパルタの勢力は、次第に退潮していった。
「テバイは強いぞ」
 スパルタの支配から逃れる好機と見たボイオティア地方の国々は、テバイと相次いで同盟関係に入った。この同盟をボイオティア同盟という。なお、テバイはアテネを盟主とする海上同盟に加盟しているから、ボイオティア同盟加盟国は、アテネとも同盟を結んでいるということになる。
 今や、ボイオティアでテバイに敵対する国は、南のプラタイア、北のオルコメノスの二国を残すのみであった。


 しかし、国威高まる中、エパミノンダスたちはむしろ悩んでいた。
「スパルタ最強の重装歩兵部隊をどのようにして打ち破るか」
 近い将来、スパルタとの決戦は避けられない。が、その勝利にはスパルタ軍の中核を構成する重装歩兵部隊を打ち破らなければならない。ところが、スパルタ重装歩兵は世界最強。世界帝国ペルシアの軍も、かつて、アゲシラオス率いる重装歩兵部隊の前に撃破されているのだ。
 確かに、スパルタの侵略は撃退した。また、幾つかの戦いに勝利もした。
 が、いずれも小規模な戦闘、遭遇戦に過ぎない。平原での会戦になれば、主力部隊の優劣が全軍の勝敗に直結する。これまでもスパルタ重装歩兵との戦いでは必ずといっていいほど押し込まれていた。
このまま決戦を迎えれば、敗北は必至だったのだ。
 ゆえに、最近の評議会での議題は、このことばかりであった。


 ある日、スキピオは、ゴルギアスに連れられて体育場に足を運んでいた。二人のすぐ後ろには、ペロピダスがニヤニヤしながらついてきていた。
「おまえにゃ剣ではかなわねえ。レスリングで勝負だ」
 そう。剣術では、何度挑戦しても、ゴルギアスはスキピオにかなわなかった。そこで、業を煮やし、自分の得意なレスリングで勝負しようと、スキピオを半ば強引に連れ出してカドメイアの丘を降りてきたのだ。
「分かりました。受けて立ちましょう」
 苦笑いするスキピオの横で、ペロピダスがからから笑った。
「はは。レスリングなら勝てると思うのは、どうかと思うぜ。こいつは、あのスパルタで地獄の訓練を耐え抜いた男だからなあ」
 当時の体育場は、肉体鍛錬の場だけにとどまらず社交場でもあった。体を鍛えることは市民の美徳とされていたので、いつも多くの成人市民で賑わっていた。
 三人が体育場に入ると、大歓声が沸き起こった。
中に入ると、人だかりだ。
「おい、どうしたんだ。一体?」
 ゴルギアスは、そばにいた若者を掴まえた。
「あ、ゴルギアス殿。凄い奴が現れたんですよ」
「どう凄いんだ?」
「レスリングですけど、とにかく強いんですよ!我こそはと挑む者が、次から次と倒されるんです!」
「ほほう」
 レスリングといわれては黙っていられない。ゴルギアス、人だかりを掻き分けた。
「どいてくれ、道をあけてくれ」
 そのあとをペロピダスとスキピオがついていく。
 また歓声が起きた。三人が人垣の中に、にゅっと顔を出すと、丁度、大男が大地に叩きつけられたところだ。
 係官が、大の字になって倒れている男を運び出す。
 中央に一人、長身の青年が立っている。銀髪を美しくなびかせ、軽く呼吸を整えている。そして、こちらを振り向いて顔を輝かせた。白い眉の描かれた、その整った美貌が、汗できらきら輝いている。
 ペロピダスが、その視線の先に目を遣ると、嬉しそうに応えている青年がいた。
「お、イスメニアスか」
 そのイスメニアス、ペロピダスの視線に気付くと、近づいてきた。
「どうです、ペロピダス殿。わが友イオライダスは」
 イスメニアスは自慢げだ。
 イスメニアス。父は、かつてエパミノンダスやペロピダスら民主派を率いた指導者、同名のイスメニアスだ。アルキアス一派のクーデターで逮捕され、スパルタに連行されて、スキピオの目の前で裁判が行われ、処刑されたあの男だ。
 イスメニアスは、この年15歳。イオライダスも同じ年だ。
「お前の友であったか」
「そうです」
 当時、友は今日以上にかけがえのない存在。友の誇りは自分の誇り。従って、イオライダスの活躍は、イスメニアスの大自慢なのであった。
「ふふん」
 ペロピダスは鼻で笑った。彼本来の天邪鬼がむくむく沸き起こってきたのだ。そう。彼は、得意そうな男を見ると、ここぞと揶揄したくなるのだ。
「スキピオよ」
「はい」
「ゴルギアスと闘う前に、軽く相手してやれ。世間が甘くないことを思い知らせてやれ」
「分かりました」
 スキピオは、こくとうなずくと、すぐに上半身裸になった。
 

 スキピオが現れると、観衆から一段と大きい声が上がった。
「こいつは見ものだ。あのスキピオとイオライダスの対戦だ」
「どっちが強いのかな」
「やっぱり、イオライダスじゃないか」
「スキピオだろう。やつは剣の達人」
「剣は使えないから、やっぱりイオライダスさ」
 周囲は好き勝手囀(さえず)っている。いつの時代の野次馬も同じである。
「スキピオ殿、いきますぞ!」
「おう、遠慮は要らぬ」
 まず、二人はがっしと四つに組んだ。
「やれ!」「いけ!」
 周囲はやんやと囃し立てた。
 が、期待に反し、二人は途端に動かなくなった。
 達人同士の戦いは、往々動きが止まるもの。実力が拮抗しているから、すぐに勝負がつく筈もないし、相手の間に飛び込む愚を冒す筈もないからだ。
「むむ」「おお」
 スキピオは、スパルタであらゆる格闘の訓練を受けた戦闘の専門家。そのスキピオをして、イオライダスはびくともしなかった。
 が、この事態は、イオライダスにとっても意外であった。
(こんなはずは…)
 満身の力を込めても、スキピオの体はびくともしない。彼の体を掴むイオライダスの腕が、ぐっと力を込めると、スキピオのその部分が固くなった。
「くっ、くく」
 まるで動かない巨岩と格闘している錯覚を覚え、イオライダスの顔は真っ赤になった。
「やるなあ」
 スキピオは、にこりとして見せた。
「えっ」
 イオライダス、闘う我を忘れた。
 その瞬間、体がふわと浮き上がった。空に投げ出されたのだ。
 スキピオの小柄な体のどこにそんな力があるのか。
「あっ!」
 イオライダスは短く叫んだ。周囲の歓声が重なる。
 が、イオライダスも負けてはいない。抜群のバランスを見せて着地すると、
「なんの、これしき」と猛然と突進してくる。
体格に任せて、スキピオを体ごと、ふっ飛ばそうというのであろう。
 スキピオは微笑んだ。
 力に力で対するは愚の骨頂。イオライダスの腕を巧みに掴むと、のしかかってくるその体重を後方に逃すように、背負い飛ばした。
「うわあぁ」
 たまらず、イオライダス、背から地に叩きつけられる。
「ぐっ…。まだまだ」
 イオライダス、いっかな降参することなく、スキピオに向かっていく。
 スキピオに何度叩き伏せられても、向かっていく。さすがの、スキピオも、肩で息をしている。
「どうして降参せぬ」
「友の見ている前で無様に降参などできようか。スキピオ殿こそ降参されてはいかが」
 スキピオは、そういう強情な男が大好きであった。満面を笑みにした。
「はは。天晴れな強情者。いいだろう。かかってこい。何度でも叩き伏せてやる!」
「おおお」
 二人の見事な戦いぶりに、野次馬も、やんやの喝采を送った。
 

 ゴルギアスも興奮して夢中で手を振り回していた。が、突然、
「これだ!」と叫んだ。
 ゴルギアスは、隣のペロピダスの肩を勢いよく叩いた。
「これだよ!ペロピダス殿!」
 こちらも夢中に声援を送っていたペロピダス、いきなり怪力で叩かれ、目を剥いた。
「何しやがる!」
「天下無敵の軍団ができますよ!」
「なんだと?」
 訝るペロピダスに、ゴルギアスは愛嬌一杯の笑みを浮かべた。
「イオライダスやイスメニアスみたいな奴が集まれば、スパルタ重装歩兵にも負けない、最強の軍団ができるということですよ」
 ペロピダス、しばらく考えていたが、はたと手を打った。
「そうか!」
 目が輝いている。閃いたときの彼だ。
「人を守る力、人を信じる力…それを生かすと、こういうわけだな!」
「へへっ。私には、いま一つうまく言えませんが、そんなところですかな」
「そいつは名案だ!」
 それからもスキピオとイオライダスの闘いは続いた。が、決着がつかない。
 ついには、二人ともへとへとになり、その場にへたり込んでしまった。
「ふふ」「はは」
 顔を見合わせ笑った。
 それは新たな絆の生まれた瞬間。爽やかなものであった。
 市民たちは暖かな拍手を送った。


 ゴルギアスの進言を聞くと、エパミノンダスは驚き、そして、大きく笑った。
「ははは、ゴルギアスにしては見事な着想ではないか」
「そうでしょう」
 ゴルギアスは得意げだ。
「よし。街から勇敢な若者を選りすぐり、友と二人一組として新たな一隊を作ろう。ペロピダス、手配してくれ」
「隊の名前はどうする?」
 ペロピダスがいうと、ゴルギアスが咳払いした。
「そいつもちゃんと考えています」
「ほう。何だ」
「神聖隊です」
「神聖隊?なぜ『神聖』なのだ?」
 ペロピダスが訝しげな顔をした。
「我がギリシアにおいて、友愛は神聖。その友愛の絆で結ばれた部隊だからにございます」
 それを聞くとエパミノンダスは大きく頷いた。
「ふむ。よい名だ。それでいこう」
 それから間もなく、テバイに新しい軍団、神聖隊が創設された。テバイ中から武勇に優れた若い二人の親友同士が集められ、神聖隊に加えられた。もちろん、イオライダスとイスメニアスもその隊員に選ばれた。
 神聖隊の隊長にペロピダス、副隊長にはゴルギアスとスキピオが任命された。
 この神聖隊が、その後のギリシア世界に名を轟かせることになる。



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面白く読ませてもらってます。おほんとうに神聖隊ってあったんですか?

2007/12/8(土) 午前 3:38 rom*n*ho*iday4*7

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おはようございます。お読みいただきありがとうございます。
ええ、神聖隊は歴史上存在し、プルタルコス英雄伝によれば、ゴルギアス(ゴルギダス)の発案で誕生したそうです。
当時同性愛が公認されていたことから、同性愛者のカップルを集めた部隊とも言われています。
今日的な感覚からは、親友同士みたいなものと考えて、上記のような話にいたしました。

2007/12/8(土) 午前 10:04 Dragon

へ〜〜
同性愛が公認されてたんですね。@@
知りませんでした。
おもしろいアイデアですねぇ
うまいこと行くんかなぁ?と思ったけど名前がとどろいたってことは
うまく行ったんですね♪

2009/4/16(木) 午後 2:22 らんらん

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らんらんさんおはようございます
うまくいった、といえると思います。
こらから何度も登場しますので

2009/4/17(金) 午前 8:27 Dragon


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