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ペロピダス率いるテバイ軍の進路です。
テギュラの戦い
テギュラの戦い
紀元前375年春。
再び、ボイオティアの大地に風雲急を告げ始めた。隣接するフォキス地方で、スパルタに対する叛乱が勃発し、ボイオティア北部のオルコメノスに駐屯するクレオニュモス将軍率いるスパルタ軍が、その鎮圧に急行したというのだ。
「これは好機ですぞ」
いつもは慎重なカロンが口火を切ると、ゴルギアスも、
「そうだ。今をおいて、オルコメノスを攻略する機会はない」と同調した。
そして、メロンも顔を紅潮させて立ち上がった。
「スパルタ王アゲシラオスは未だ病中。しかも、アテネにアリュゼイアで敗れ、スパルタ本国に大軍を動かす余裕はない」
背後から脅かすオルコメノスは、テバイにとっては、のどに突き刺さる棘の如き存在。
エパミノンダスは頷いた。
「よろしい。直ちに出陣だ」
直ちに軍勢が動員された。新たに創設された神聖隊に騎兵隊を加え、総勢二千。司令官には神聖隊隊長ペロピダス、副隊長ゴルギアス、スキピオのほか、メロンが騎兵隊を率いた。神聖隊の力試しともいえる出征だった。
オルコメノスは、コパイス湖の西北岸に位置するポリス(都市国家)で、湖を干拓して得た肥沃な土地を領有し、神話の昔から栄えてきた国だ。
しかし、この国は、古来テバイとは常に犬猿であった。
「由緒ある我が国が、テバイの風下に立てようか」
その反発もあり、急速に勢力を拡大するテバイに対抗するため、街にスパルタ軍を駐屯させていた。
テバイから見れば、オルコメノスのスパルタ軍に背後から牽制される形だ。これを放置しては、来るスパルタとの決戦に、前面に全兵力を向けることができない。従って、その攻略はテバイにとって急務であった。
テバイ軍二千は、コパイス湖北岸の道をとった。南岸には平坦な道が広がり進軍は容易であるが、当然警戒も厳重である。そのため、あえて北岸を進んだものだ。が、山裾が湖水に迫り、険しい道が続く。テバイ軍の進撃は困難なものとなった。
「間もなく、オルコメノスですな」
まだ春先というのに、ゴルギアスは汗だくになって、ふうふう言っている。
「うむ。ここを奪えば、北方の憂いがなくなる」
ペロピダスも、額に汗を光らせていた。
傍に従うスキピオも、汗を拭き拭き馬の手綱を懸命に取っている。
その彼がある疑問を口にした。
「でも、どうやってオルコメノスを攻略するのです?オルコメノスは湖水と山に囲まれた要害。我が軍は二千。容易には攻め落とせませんぞ」
「ふふ」
ペロピダス、にやりと笑った。
「オルコメノスも一枚岩ではない」
「というと?」
「近年の情勢を見て、スパルタに従うことに不安を抱く者も多い。また、反スパルタ派の連中は、政権からのけ者にされて不満をもっておる。我らの攻撃が開始すれば内応するとの密書が届いているのだ」
「なるほど」
「われらは、オルコメノスに迅速に進撃すればよいのだ」
スパルタ軍の留守の間にオルコメノスを占領するため、テバイ軍はとにかく進撃を急いだ。夜通しで進軍を続けた。
テバイ軍は、オルコメノス近くのテギュラの村まで進むと、食事を摂り兵に休息を与えるため、一休みを入れた。
そこに、先行していた密偵が、馬を飛ばし戻って来た。
「ペロピダス将軍!ペロピダス殿はいずこ!」
「俺はここだ!どうした!」
密偵は馬から下りるのももどかしげに、
「大変です!スパルタ軍がこちらに向かってきます!総勢三千!大将はクレオニュモス!」と、まくし立てるように報告した。
「なに!もう引き返して来たか!」
「はい、フォキスの叛乱をたちまち鎮圧して、こちらに反転してまいりました」
クレオニュモスとは、あのスフォドリアスの息子。この時十八歳。
何かと粗暴な振る舞いの多い父と違い、既に智勇兼備の将として名を馳せていた。その彼は、フォキスの叛乱を巧みに鎮圧すると、引き返す途中にテバイ軍の進撃を知って、こちらに急進してきたものであった。
「クレオニュモス如き恐れることはない。打ち破ってオルコメノスに奪おう!」
ゴルギアスが急き込むと、ペロピダスは首を振った。
「ここは退却だ」
その言葉に、ゴルギアスは顔一杯に不満を表した。
「そんな!まだ一人の敵兵を見ぬうちに退くなど…」
「馬鹿!ここの地形を見ろ!」
と、ペロピダスは周囲を指差して怒鳴った。
「背後は山!左に湖水!ここで敵の急襲を受けたら全員溺れ死ぬよりほかない。戦うによい地形まで退くのだ」
ペロピダスは、直ちに兵をまとめ退却を開始した。訓練された精鋭の神聖隊。その退軍も鮮やかであった。
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