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アリュゼイア沖の海戦(続き)
ティモテオスの旗艦にも、スパルタ兵の雄叫びが包み込んできた。
ティモテオスを守る将兵たちも、驚倒させられ、大きな動揺を見せていた。
「閣下!このままでは全滅です!退却しましょう!」
「ならぬ!歯を食いしばって戦うのだ!」
ティモテオスは動かなかった。
が、その間にも、目を怒らせて飛び掛らんとするスパルタ兵の形相が見て取れるほどに迫ってきた。アテネ兵は恐怖で身の毛をそそけ立たせた。
他方、ニコロコスは、旗艦の船首に立ち、夢中で采配を振るっていた。彼の目にも、敵将ティモテオスがはっきりと捉えられていた。
(あの海戦の名将ティモテオスに勝てる。勝てるぞ!)
「それ、我らも突っ込むのだ!ティモテオスを捕えよ!」
ニコロコスの旗艦も、ぐっと前に進んだ。
スパルタ艦隊は、いよいよ最後の総攻撃に移ろうとしていた。
が、その時、異変が生じた。
旗艦にいた兵のほとんどが前方のティモテオスの旗艦に注意を奪われていたが、後方から送られてきた合図に、兵の一人がようやく気付き、慌ててニコロコスに告げた。
「閣下!大変です!後方から敵艦出現!その数、およそ三十!」
「なんだと!」
ニコロコスが船尾に向かうと、アテネ艦隊がまっしぐらに、スパルタ艦隊の後方に迫ってくる。アウトクレス率いる艦隊だ。
「一体、どこから現れたのだ!」
「どうやら、イタカ島の西側を迂回してきた模様です!」
アウトクレスは、既に味方が敵艦隊と激闘を繰り広げているのを見ると、息もつかせず全速力で船を漕がせた。
「それ!スパルタ艦隊の背後に突っ込め!」
疲れを知らぬ新手の艦隊がまっしぐらにスパルタ艦隊の後方に突き進んでくる。
ニコロコスは慌てた。
「ポロス!ポロス!」
「おう!」
「後方のアテネ軍に向かってくれ!前方のアテネ艦隊は既に崩れ始めている。しばし食い止めてくれれば、我らの勝利だ」
「わかった」
ポロスの不安は的中した。しかし、今は何を言っている暇もない。
彼は、別の艦に飛び移ると、味方を励まし、三十隻の艦を率いて後方のアウトクレス率いる敵艦隊に向かった。
一方、ティモテオスはここぞと将兵を鼓舞した。
「よし!味方が敵の背後を衝いたぞ!反撃開始だ!」
味方の来援に勇気百倍となったアテネ軍の反撃に、スパルタ軍の勢いが止まった。
ティモテオスの艦隊が、逆にニコロコスの艦隊を押し返し始めた。
ニコロコスは焦った。
「えーい、旗艦に飛び移れ!旗艦を分捕れば、我らの勝利だ!」
ニコロコスの艦が、ぐっとティモテオスの艦に迫ってくる。
それを見て、ティモテオスは、にっと笑った。
「よし、今度は我らがお見舞いしてやる番だ。弓兵と投石隊、前に!」
「ははっ」
伝令が合図のラッパを吹き鳴らすと、舷側にずらりと弓兵と投石兵が並んだ。
ティモテオスは、剣を高々と掲げ、そして、その切っ先を、まっすぐニコロコスの旗艦に向け命じた。
「撃てっ!」
無数の石と矢がニコロコスの旗艦を襲った。船首に立つスパルタ戦士が、短い断末魔の声を残して、血しぶきを上げて、甲板にぶっ倒れていく。
「ひるむな!突っ込め!」
司令官ニコロコスは、周囲の阿鼻叫喚も眼中になく采配を振るい続けた。
(あの旗艦さえ沈めれば、いや分捕れば、我が軍の勝利なのだ)
その思いが執念となり、彼は闇雲に味方に突撃を命じ続けた。
が、劣勢はもう覆い隠せない。
やがて、後方のアウトクレス艦隊が、激闘の末、ポロス艦隊を撃破した。アウトクレスは、潰乱して散り散りに逃げ行くポロス艦隊には目もくれず、ニコロコス率いる主力艦隊目指してまっしぐらに突入してきた。
前後より挟み撃ちされたスパルタ艦隊は大混乱に陥った。後方から突入するアウトクレス率いる軍船の船首で、船腹を破壊され撃沈される船が続出した。スパルタ艦隊の隊列がずたずたに切り裂かれてしまった。
スパルタ軍は総崩れとなった。
逆に、アテネ艦隊が、スパルタ艦隊を包囲撃滅する態勢となった。
もはや勝敗は歴然だ。
「やむをえん!血路を開いて退却せよ!」
ニコロコス、とうとう退却を命じた。
アテネ艦隊は、逃がしてなるものかとなおも執拗に追撃したが、ニコロコスの旗艦は何とか追撃を振り切ると、南方にその姿を消した。
敵将は逃したものの、戦いはアテネ軍の大勝利であった。あたりの海上では、アテネ兵の凱歌がいつまでも鳴り響いていた。
ティモテオスは、予定通りアリュゼイアに寄航し、そこで補給を済ませると、北上してケルキュラに入港した。当初、スパルタ派市民は武装して抵抗する気配を示していたが、アテネ軍大勝の報を聞くと、慌てて街から逃げ出してしまった。
ティモテオス率いるアテネ軍は、抵抗も受けずにケルキュラ全市を制圧した。
彼は、アテネを代表して、ケルキュラのアテネ派市民と同盟を締結し、スパルタの勢力を一掃することに成功した。
スパルタはイオニア海の制海権を失ってしまった。こうしてアテネの勢力は、ますます大きくなっていったのである。
第三章カドメイアの章終わり。第四章レウクトラの章へ続く。
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カドメイヤの章も名場面がいっぱいで楽しく読ませてもらいました。歴史は苦手なんですが、何故かすらすらっと読めてしまうのが不思議なくらいです。スキピオさんとその同士の皆さんの大望が果たされますように!!
2008/9/1(月) 午後 10:49
ミルピーさん、いつもお越しくださりありがとうございます。
知らない方がいいと思いますよ。結末を知らない方が面白いでしょうし。私も、調べているとき、わくわくしていましたから。
ファンタジー小説のような感じでお読みいただければと考えています
2008/9/2(火) 午前 6:24
ふぅ〜
最後には何とかアウトクレスが間に合って良かった〜
正直ティモテオスさん落命?!と思ってしまいました(^_^;)
2009/4/14(火) 午後 0:11
ええ、間に合いましたよ^^
ティモテオスは、この成功で、本国における名声を大きく高めることとなります
2009/4/14(火) 午後 6:21