新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ハンニバルその後−閉ざされた途(さらに続き)
 ここニコメディア、ハンニバルの屋敷。
「なに、プルシアス王子がお召しとな」
「ペルガモンとの講和も成りました。王子様は、一席設け慰労申し上げたいとのこと」
 王城からの使者は淡々と用向きを述べた。
「ほう…」
 ハンニバルは隻眼を僅かに見開いた。全く意外であったのだ。




(あの王子が…)
 プルシアス王子は、ローマとの関係を慮り、ハンニバル招請を喜ばず、王に盛んに諫言していると聞こえていたからであった。それが自分をもてなすとは、どういう風の吹き回しであろう。
 案の定、マニアケスは警戒の色を浮かべ僅かに首を振っている。
(御断りなさいませ)
 しかし、ハンニバルはこう答えた。
「承知しました。速やかに参上いたします」
(王子は次代のビュテニアの王者。ここは機嫌伺いも悪くはない…)
 そう判断したのだ。




 使者が帰ると、マニアケスは明白に反対した。
「プルシアス王とフラミニヌスがキュジコスで様々にやりとりしておるとか。どのような思惑が働き出しているやも知れませぬ。しかもプルシアス王子は酷薄無残、その相、険悪狡猾。油断なりませぬ」
 居候先の王太子に、容赦なく君主落第の烙印を押した。
「はは」
 ハンニバルは笑った。
「そなたのように警戒の眼差しで見れば、全てが疑わしく見えよう。講和は成ったのだ。事態が変わるとすれば、もう少し先のことであろうよ」
 それは自身のもやもやするものを敢えて打ち消すかのようであった。




 その言葉にマニアケスは悲しげな眉を浮かべた。
(細心の化身と謳われた閣下。かつては僅かな不安にも手当てしたものであるが…)
 だが、彼女は、もはやこの人物と運命を共にするしかない。
「かしこまりました。ならば、お供仕ります」
「うむ」
 ハンニバルは衣服を換えると、マニアケス一人を連れ屋敷を出た。


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 ハンニバルその後−閉ざされた途(続き)
「はは。そんな訳はない。余はローマの同盟国の王でござるぞ」
 あくまでも白を切る老獪なヘレニズム君主に、
「老君」
 フラミニヌスは声にドスを利かせた。
「その者が明らかに宮廷にあって、王家に与力していたのならば、それは明らかにローマへの敵対行為。ペルガモンとの紛争騒ぎどころではありませぬ」
「フラミニヌス殿…」
 やんわりと反駁しかけた老王を、フラミニヌスは制した。
「我がローマは裏切りには鉄槌を下すことを信条としており申す。カプアを御覧あれ。シラクサを御覧あれ。裏切った両国がどうなったか、老君もよく御承知かと」
 裏切りは絶対許さぬという明白な意思表示であった。




「う…」
 地中海世界の覇者ローマの恫喝に、老君プルシアスは狼狽した。
(少しローマを刺激し過ぎたか…)
 ハンニバルを、対ローマの駆け引きの材料ぐらいにしか思ってなかったプルシアスは、自身の見当違いを思わざるを得なかった。
 もっとも、その程度と考えていた訳だから、王の思考は当然の如く急転回した。
(フラミニヌスは、ハンニバルを捕える栄誉を欲しているな…)
 相手の意図を素早く見抜くと、
(ここらが見切り時…)
 ローマの有力者に恩を売る好機と結論付けた。




「よろしいでしょう。我が国にローマへの二心はありませぬ。それを証立てるため、直ちに引き渡すよう取り計らいましょう」
 君子はまさに豹変した。
 その夜、キュジコスからニコメディアに向け、早馬が向かった。


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 ハンニバルその後−閉ざされた途 
 ローマ使節団は、ビュテニア王プルシアス一世と面会し交渉した結果、王はペルガモン王国との戦争終結に同意し、正式に和睦の運びとなった。
 条約の詳細は伝わっていないが、ビュテニアの本領安堵は約束されたようだ。要は、それほど悪い中身ではなかったということであろう。




 講和条約締結は、中立の都市キュジコスでなされることとなった。
 もう一方の当事者、ペルガモンのエウメネス王一行もやって来た。
 この時、ペルガモン王家についての逸話が残っている。
 エウメネス王は、この外遊に、王家の重臣ともいうべき弟アッタロスに加え、母アポロニスを伴ってやって来た。
「母上にキュジコスの街並を愉しんで頂こうよ」
 ペルガモン王家の兄弟は親孝行で有名であった。
 キュジコスは壮麗な都市だったらしく、アポロニスは市内各地を巡り、神殿参詣やら名所の観光を愉しんだ。その老母の左右には、エウメネスとアッタロスが付き従った。




「おお、なんと麗しい光景」
「母御の仁徳の賜物であろ」
 キュジコス市民は称賛した。
 ペルガモン王家の名声いよいよ高まることとなった。同じ時期、マケドニア王家が、ペルセウス、デメトリオス兄弟いがみ合い、大いに不評を買い、国家の土台を揺るがしていたのとなんという違いであろう。偉大なる指導者は、外遊一つで名声を高めることが出来るのだ。




 諸国の代表による講和条約調印が滞りなく済んだ後、大宴会が催された。
 ペルガモン王やビュテニア王のほか、周辺諸都市の代表が集まっていた。
「祝着にござる」
 フラミニヌスが流暢なギリシア語で、プルシアス一世王に語りかけた。
「これもフラミニヌス閣下の御尽力の御蔭」
 老王は安堵していた。
 ローマの意に反するのを承知で三年もペルガモンとの戦いを強行し続けた後に、このような軟着陸を見ることが出来たのだ。在位五十年の底力と自負したに違いない。
 だが、ローマ政治家は決して生易しくはない。彼はそのことをすぐに思い知る。




「老君、ひとつ気掛かりなことを耳にしましての」
 そのローマの政治家フラミニヌスが意味有りげに微笑んだ。
 この時、四十五歳。いよいよ気力充実、野心満々を見せていた。
「はて、何ですかな」
「貴国に重罪人が匿われているという話です」
 声を落とした。
「重罪人…」
 老王はすぐさまピンと来たに違いない。
 だが、交渉の際の弱腰は禁物とばかり、ふてぶてしい笑みを浮かべ、
「それは初耳ですな。誰のことでしょうかな」
 と空とぼけた。
「アパメイア和約により我が国に引き渡されるべき者。老君にはよく御存知かと」
 フラミニヌス、敢えて名前は伏せたが、和約でローマに名指しされた者は、一人を除いて全てローマに引き渡されている。だから、それが誰かは明らかであった。


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 ハンニバルその後−野心再燃(続き)
 フラミニヌスは、王都ニコメディアに到着すると、王君との面会の前に密かにプルシアス王子と会った。
「王子よ、再会出来て嬉しゅうございます」
「ありがたきお言葉…」
 プルシアス王子は英雄フラミニヌスのおおどかな言葉に感激した。
 これはフラミニヌス得意の手口。ヘレニズム諸国の王子たちに密かに手を回し、そこから様々な伝手を作り、政略を施していくのだ。マケドニアのデメトリオス王子もそうだ。
 そして、ここでもそれが功を奏した。




「実は閣下に打ち明けたきことが」
「ほう、何かな」
「ただ、このことで我が王国に咎めが及ばないようなにとぞ御配慮を」
「ははは。随分慎重なこと。安心なされよ。いかなることあろうとも、このフラミニヌスが元老院にとりなして進ぜよう」
「それでは…」




「なにっ、あのハンニバルがここに!」
 フラミニヌス、驚きの声を上げた。
「しーっ、声が大きゅうございまする」
 王子は慌てた。
 宮廷内では公然の秘密であったが、自身の口から漏れたとなれば、ハンニバルを重用する父王の手前、立場上宜しくないからだ。
「ローマとの同盟に反すると何度も諌めたのではございますが…」




「ふーむ」
 しきりに弁明する王子を前に、フラミニヌスは密かに興奮を覚えていた。
(これは…ハンニバルを我が手で捕える好機)
 大カルタゴを率いイタリアを十五年間に渡り蹂躙し、さらにはアンティオコスと手を組み押し寄せて来た。まさにローマ史上最大の敵。スキピオですら捕えること叶わなかった強敵。
(彼を捕えれば、我が一門の名声も取り戻せよう)
 兄ルキウスの失脚以降、フラミニヌスの勢力は甚だ芳しくなかった。盟友スキピオの勢力も退潮。ローマ政治は、カトー一派に市民の支持を奪われていた。
(ローマ市民も、ハンニバルを捕えた我を見れば、かつての栄光を思い出してくれよう)
 フラミニヌス、キュノスケファライ以来の功名の好機に、野心を燃やし始めた。


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 ハンニバルその後−野心再燃
 プルシアスの宮廷が和平の機運に盛り上がる中、これを警戒していた者がいる。
 マニアケスである。
「閣下は危機ある所でこそ重宝され平和ある所では危うい」
 対ペルガモン戦争終息が近づくにつれ、幾度となくハンニバルに進言した。
「プルシアスは油断ならぬ人物」
 マニアケスは繰り返した。
 だからこそハンニバルを受け容れてくれた訳だが、対ローマの関係で窮すれば、ハンニバルの身柄を引き渡そうとするに違いない。また、息子のプルシアス王子が常に陰険な光を宿していることも気にかかっていた。




「既に手は打ってある」
 ハンニバルは細心の注意を払う男。
 密かに地下道を幾筋も掘り、屋敷から遠くに抜け出る脱出路も確保していた。
「風向きが変われば直ちに出国するつもりだ」
 ローマの手から逃れるべき宿命を負う彼。滞在する国がローマに靡けば、遅かれ早かれ退散するしかない。




「だが、余には行き先があまりない」
 ハンニバルは苦笑した。
 ビュテニア周囲全てがローマの同盟国。
「それゆえ、出来る限りここに留まり、それから新たな亡命地を探すことにしようよ」
 ハンニバルにしては悠長にも響くが、彼も六十の半ば。この時代では完全に長老の部類に属する。機敏さを多少失っていたとしても、彼の名誉を損なうことにはなるまい。
「は…そういうことでしたら」
 マニアケスは退出した。




 彼女は胸騒ぎがしてならなかった。
(こうなれば…フラミニヌスの動向に注意を払わねば…)
 それから間もなくして。
 フラミニヌスを筆頭に、カエキリウス、プルクルスの三人が、ビュテニアに来訪した。三人ともローマ政界の重鎮だ。
 用件は、速やかにエウメネス王との戦争を停止し、アパメイアの和約の遵守を求めることであった。


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