新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 ハンニバルその後−駸々滔々(さらに続き)
「とはいえ、妻の実家だからの…」
 王は渋い顔をした。
 彼はフィリッポス五世の妹を妻に迎えていた。ここだけではない。ヘレニズム諸国は姻戚関係で複雑に絡み合っていた。
 王家の婚姻は、近世まで、国家安全保障の重要な政策遂行手段であった。




「義兄君はなかなか恐ろしい人物だからの」
 プルシアスは心底恐れていた。
 なにせフィリッポス王の謀略は見境ない。彼の怒りを買えば、どのような危険が迫るか知れたものではなかった。
「はは」
 ハンニバルの隻眼が笑みを浮かべた。
「フィリッポス王も、今はビュテニアに構う余裕などありますまい」
 マケドニアが対ローマの交渉に忙殺されていることを指摘した。
「それゆえ、ここは行動あるのみかと。さればこそ後に譲ることも出来るというもの」
 それは、取れる時に取れ、ということ。そうすれば、押し込まれて譲歩しても国益を保持出来る、そういうまことに厳しい国際政治の現実であった。




 紀元前183年初夏。
 ローマ使節団がギリシア本土の諸国を経て、アジア諸国を歴訪すると伝わって来た。
「使節団を率いるはフラミニヌスらしいぞ」
 それが伝わると、ビュテニアとペルガモンの戦争も自然と中断した。
 ギリシア世界では、フラミニヌスの名声はなおも燦然と輝いていた。
 彼が来てもなおも戦闘継続となれば、ローマの威光を傷つけることになり、ひいては自国の立場が不利になることは明らか。特に、ビュテニアは、ローマの意向に背く形で戦争を続行していたから、率先して停戦した。
 こうして、戦争は終息に向かったが、これがハンニバルの運命に急旋回をもたらすこととなった。


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 ハンニバルその後−駸々滔々(続き)
「父上。我々もローマの同盟国なのですぞ。ハンニバルを匿えば、同盟の信義に反することになり、ローマ軍に攻め込む口実を与えましょう」
 同盟の信義を裏切った国々がどうなったか、アイトリアやギリシア本土の諸国が実証していた。




「案ずるな」
 父王は冷笑した。
「アジアは複雑である」
 アジア(今日のトルコ=小アジア)には幾つもの王国が乱立していた。ペルガモン、ビュテニア、ポントス、カッパドキアの四王国が有力であったが、それ以外にもガリア人の小王国群、さらにはギリシア人の独立都市国家が点在する。これら諸国家は離散集合、対立と均衡を繰り返して来た。
 古来、この地域はこんな感じで、ために、アレクサンドロス大王もアンティオコス大王も、諸勢力の支配権を認め、彼ら諸侯を統御する間接統治を選択した。一つずつ攻め潰すとなると、大変な手間と犠牲を伴うからだ。
「ローマとて、この地域の秩序を重んじぬわけにはいかぬよ」
 そこは在位五十年の自信だ。戦乱に明け暮れたこの地域で、長らく王位を保つこと自体稀有のこと。




「王君」
 そのハンニバルは進言した。
「いずれ、エウメネスの要請に応じ、ローマが使節団を派遣して来るでしょう」
 既に、エウメネスの使者が頻々とローマに赴いていることは伝わっていた。
 当然、それはビュテニアを弾劾するものでローマの仲裁を仰ぐ使節たちだ。
「ですから、それまでになるべく勢力を拡大しておくべきです」
 それはペルガモンに大攻勢をかけよということだ。




「ほう」
 王は目を丸くした。
「ローマを刺激せぬか」
「なんの」
 ハンニバルは笑った。
「今、ローマが注視しているのは、ここではありませぬ。マケドニアにございます」
 この時(紀元前183年)、マケドニア王フィリッポス五世の暴政いよいよ凄まじく、ローマ元老院はフィリッポス王の一挙手一投足を警戒していた。




「マケドニアとの関係を切り札となされませ」
 いざとなればフィリッポスとの敵対も辞さず、ならばローマとも和解できよう、ということだ。敵の敵との関係は、国際関係では有力な手札となる。
 ビュテニアは、対ペルガモン戦にフィリッポス王の援軍を得ていた。マケドニアにとってもペルガモンは宿敵だからだ。というより、ローマへの当てつけでもあったが。


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 ハンニバルその後−駸々滔々
 紀元前183年初め。
 ここビュテニアは、アパメイア和約成立以降、皮肉なことに連年戦いの渦中にあった。
「さて、ハンニバル君、エウメネスとのことであるが」
 プルシアスは下問した。




 話題の俎上エウメネスとは、無論ペルガモン王エウメネス二世のこと。
 和約後、ビュテニアとペルガモン両国は対立した。というのも、アパメイア和約の一条項は、ビュテニアがペルガモンから奪った地域の返還を定めていたが、プルシアスが何の彼の口実を設け拒んで来たからだ。
 ついに紀元前186年、両国の間に戦端が開かれ、断続的に戦闘が継続し、戦いは三年越しとなっていた。
 ハンニバルを招いたのも、前線に立たせるわけにはいかないが、軍師参謀としての役割を期待したものに違いなかった。
「こっそり知恵を借りるだけならば、ローマとて咎めることは出来まい」
 プルシアスらしいしたたかさである。




 宮廷内にはハンニバル招請に反対する向きもあった。
 特に、プルシアス王子(後の二世王)は強く反対した。
 この王子は、その容貌およそ勇敢な民ビュテニア人に似つかわしくなかった。容貌醜く、背が一般人の半分ほどしかなかった。それは先天性のものでやむを得ないとしても、逞しさに欠け武勇の素養まるでなかった。
 君主の理想像がヘラクレスのような美貌で勇武を兼ね備えることとされていた時代にあって、これだけで十分不人気の理由となるのに、その所作まるで女の如くであったらしく、加えて淫らな欲望も旺盛ときた。こうなると、生理的な得難い不快感を与える。




 市民家臣に陰口を叩かれる始末で、歴史家ポリュビオスも、卑怯で臆病で苦労に耐えることもできぬ、と散々にこき下ろしている。
 だが、当人は、人臣の風評などどこ吹く風で野心満々。唯一の取り柄は頭脳の回転の速さ。これが父に重宝された。だから、父王から廃嫡されることなく、太子の地位を保ち続けていた。
 この時も、そのよく動く頭と口で父を見上げた。


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 ハンニバルその後−ビュテニアの日々(続き)
 アンティオコスの地を追われたハンニバルは、覇者ローマの大罪人。アパメイア和約発効当初、どこの国も匿ってはくれなかった。やむなく、ポントス王国やらカッパドキア王国、アルメニア王国など、アジアの地をさまよい、逃亡の月日を送った。
「この上は、スキタイもしくはインドにまで逃れるしかないのかも知れぬ」
 ハンニバルは覚悟を決めた。スキタイは北方の草原地帯、インドはこの時代東方の最果て。いずれもローマ・ギリシア世界からすれば人外の地に等しい。
 ならばいっそ自決をという覚悟でもあった。




「お待ちを。一つ受け容れてくれる可能性のある地がございます」
 諌めたのはマニアケス。彼女は、ずっとハンニバルに付き添っていた。
「どこだ」
「ビュテニアにございます」
「ビュテニア…ローマの同盟国ぞ」
「そうですが、同国は、西にマケドニア、南にペルガモンの両大国に挟まれております。さらに、東からはポントス王国の攻勢。説きようによっては閣下を受け容れてくれる可能性は充分にございます」




 プルシアス一世は名うての策士。アンティオコスとの対抗上ローマと同盟を結んだものの、決してローマに盲従するつもりはなかった。だから、有力な手駒を欲していた。
 そのため、プルシアスは、ハンニバルの密かな希望に喜んで応じた。
「貴君ならば、いかなる敵の襲来にも、我が王国を守ってくれよう」
 この時、ビュテニアがペルガモン王国と対立していたことも幸いした。ペルガモンはローマの最も信頼する同盟国。即ち、ビュテニアは半ばローマの規矩(きく)から離れていた訳だ。



 こうしてプルシアスの宮廷に身を寄せることとなった。
 ハンニバルは安堵したが、同時に苦笑いを浮かべた。
「結局、スキピオ君の言った通りになる訳か…。彼をピュロスに次ぐ三番目の武将に据えるべきであったかな」
 スキピオは、自分がハンニバルならばビュテニアに身を寄せると、暗に勧めてくれていた。まさに運命はそのように辿っていく。それが面白くてならなかった。
「歴史とは不可思議の連続であるが、案外単純なのやも知れぬ」
 だが、ハンニバルは不思議な安心感に包まれていた。彼が認める人物スキピオの指し示す地に向かうことが正しい方角なのだ、その確信を与えてくれたからだ。


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 ハンニバルその後−ビュテニアの日々 
 紀元前184年夏。
 ここビュテニア王国の都ニコメディア(現イズミット)。
「いがかかな、この都市の住み心地は」
 そう問うたのは国王プルシアス一世。
 この時、在位五十年を超え、齢七十を越えていた。
「はい。全てが快適。老君の配慮かたじけなく」
 そう応えたのはハンニバルであった。この時、六十四歳。




 アパメイア和約の発効(紀元前188年)に伴い、アンティオコスの王国の地を追われてから、四年間各地を転々と流浪したが、ようやくここに落ち着きを得ていた。
「ここはまさに天恵の地。海に通じ、四方を山に囲まれた要害。貿易に適し防衛の容易な、まこと王都に相応しき大地にございます」
 ハンニバルは追従にも似た言葉を並べた。
 ここでは、彼も宮廷人の一人に過ぎない。
 日々出仕してする彼の主な仕事は、老王の話し相手となることだ。
 プルシアスは、ハンニバルのこれまでの辿った運命を物語として愉しんだ。確かに、彼の話は、恐らくこの時代のいかなる読み物よりも面白かったのではないか。他にあるとすれば、スキピオの話であろうか。アンティオコスの話もなかなか興味深いが。




「やれやれ、帰ったぞ」
 ハンニバルは都の内に与えられた邸宅に戻ると、貴婦人が現れた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
 それはマニアケスであった。
 彼女もこの時五十を越えていた筈だが、いかなる不思議、滴る美貌を未だ湛えていた。




「宮廷に仕えるとは何と肩の凝ることよ」
 そう言って、右肩をぽんぽん叩いた。
「ほほ」
 彼女は上品に笑った。まるで何代も続いた名家の女のようだ。
「贅沢を申されますな。その御蔭で、こうして安心して暮らせるのでございますから」



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