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背後の敵
翌日、昼を過ぎて、マウソロスの使者が、迎賓館にペロピダスを迎えにやってきた。
「それでは、城に案内いたします」
「おう、ご苦労」
ペロピダスは、スキピオとイスメニアスをつれて、四頭立ての馬車に乗り込んだ。
数十騎の儀仗兵に囲まれ、馬車に揺られて、マウソロスの居城に向かった。
壮大な居館が、目の前に姿を現した。その規模はマケドニアの王宮などとは比較にならない豪華なもので、カリアの富強を誇るものであった。
「凄いですね…これは」
イスメニアスは度肝を抜かれていた。
地中海交易による利益、カリア一帯の農民の納める莫大な税収入が、マウソロスの力の源だ。その収入の一部は、もちろんスーサの中央政府に納めるが、その残余ですらスパルタやアテネの国庫をいくつも満杯にする能力があった。
やがて、馬車は居館に到着すると、止まった。と、そこに美しい女性が立っていた。金銀宝石をちりばめた冠を載せている。
マウソロスの妃アルテミシアだ。
「ようこそ、我らが城にお越しくださいました。わたくしは、マウソロスの后アルテミシアでございます」
「おお、これはお后自らのお出迎え、恐縮です。本日は、地中海に名を馳せるマウソロス殿のお招きをいただき、このペロピダス、大変光栄に思っております」
「マウソロスも、あなた様をお迎えできて、たいそう喜んでおりますわ。ささ、こちらへ。ささやかな宴の用意をしておりますれば」
アルテミシアとペロピダスが謁見の間に入り、スキピオとイスメニアスがそれに続いて入ろうとすると、衛兵が立ちふさがった。
「ここからは帯剣禁止となっております。お腰のものを預からせていただきます」
「そうはいかん。我らはペロピダス閣下を守るため随行している者」
スキピオとイスメニアスは拒んだ。が、衛兵も強硬であった。
「しかし、カリアの法では総督の前では何人も武装は禁止されております。お渡しいただかなければ中にご案内できません」
小競り合いになりそうな空気に、ペロピダスの笑い声が響いた。
「楽しい宴席だ。剣など無用。お渡ししなさい」
二人は、しぶしぶ剣を衛兵に渡した。
それを見たアルテミシアは、美しい唇の端をかすかにゆがめた。
謁見の間に入ると、『ささやかな』という形容詞が全く当てはまらない豪華な宴席が用意されていた。
その宴席の中央奥に、カリアの支配者マウソロスが座っていた。彼の頭には、ギリシア人のいかなる王や独裁者といえども戴くことのできない宝玉のちりばめられた冠があった。そして、彼の後ろには、見事な鎧兜を着けた像が立っていた。
彼は、立ち上がって大きく腕を広げた。美しい銀髪をたくわえ、体躯堂々の彼が立ち上がると、大理石の彫刻のように美しく映えた。
「ようこそお出で下さいました。わたくしが、カリアの総督マウソロスでございます」
ペロピダスも丁寧に一礼した。
「テバイのボイオタルケース(最高行政官)ペロピダスでございます。本日は、結構なお招きをいただき、感謝に堪えませぬ」
「まあまあ、堅苦しい挨拶は後にして、まずは一杯いきましょう」
マウソロスが手を叩くと、目を見張る豪華な料理と酒が次々と運び込まれてきた。
ペロピダスは、料理にはほとんど手をつけず、酒を数杯あおっただけであった。彼の護衛を務めるスキピオとイスメニアスも、料理と酒を勧められたが、
「本日は護衛の任を務めるものですから」と固く断った。
この宴が、何らかの思惑があることは、互いに察していた。従って、打ち解けた雰囲気には程遠いものとなった。
そういう張り詰めた空気にあって、自然と座は全く盛り上がらなかった。
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