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ポンペイ遺跡に残る壁画で、ディオニュソスの秘儀の様子を描いたものです。
遺跡は紀元前二世紀頃のものですので、この物語の時代に近いといえます。
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その後クレオメネス-中(さらに続き)
ニカゴラスは、王の屋敷を辞去すると、オイナンテの密教の館に向かった。
そして、こういったのであった。
「クレオメネスは、陛下の日々の振る舞いを嘲り、大国エジプトの王たるに値せず、と口を極めて罵っておりました」
オイナンテは大いに喜び、彼にそれを書面に認めるよう言い付け、そしてニカゴラスに褒美としてぎっしり金貨の入った袋を与えた。ニカゴラスは、土地の代価に見合う以上のものを手に入れたのであった。
ニカゴラスは、ホクホク顔になって何度も礼を述べ、館を去ると、アレクサンドリアの港へ消えていった。
そう。オイナンテとアガトクレイアは、クレオメネスの僅かな落ち度を嗅がせるため、ニカゴラスをクレオメネスの許を訪れさせたものであった。
密告書を手に入れたオイナンテ、アガトクレイア親子は喜んだ。
「お母様、よいものが手に入りましたわね」
「ええ、これでクレオメネスを陥れることができる」
密教の館の女主人オイナンテは、そのしわくちゃの顔を歪めた。
彼女は、神ではなく、金に仕える俗物そのものであった。
「早速、これを陛下にお見せしましょう」
アガトクレイアが浮き立つように言うと、母親は首を振った。
「それは駄目」
「どうして?」
「私たちが見せれば、女の邪推とか言い出す者が現れかねない。しかるべき人間から、これを陛下の目に入るようにしないと…」
「それは誰?」
「ソシビオスよ。ならば、あのぼんやりした陛下も信ずるであろうし、他の者も納得するでしょう」
「そうかぁ」
アガトクレイア、計算高い母に似ず、どこか上の空な感じであった。おそらく、彼女も密教の儀式やら酒宴で、骨抜きになっていたものであろう。
「妃のあなたが呼びつけなさい。私にはしかるべき位がないのだから」
「はい、お母様」
その夜、アガトクレイアに呼びつけられた宰相ソシビオスは、密告書を見せられると、仰天した。
「なんと!クレオメネスが陛下にこのような悪意を抱いているとは!」
「そうです。表向きは忠誠を誓うが如き振る舞いをしていますが、それは真っ赤な偽り。今のうちに対処しなければ、王家の一大事」
「まこと…」
ソシビオスは、あっさり信じ込んでしまった。どうやら、プトレマイオス四世の周囲には、ろくな人物がいなかったようだ。
「直ちに陛下にご覧いただかなければ」
「では、宰相様より御高覧いただくよう手配願います」
「かしこまりました。では、この密告書はいただいてまいります」
「はい、お願いします」
蒼い顔のソシビオス、そそくさとアガトクレイアの部屋から出ていった。
物陰から、ある人物がすっと現れた。オイナンテである。
「アガトクレイア」
「はい」
「これで、このエジプトは我ら親子のものよ」
「はい。お母様」
「ふふふ。この世の長者として栄華を極めるのよ」
それから間もなく、プトレマイオス四世の勅命が下り、クレオメネスは自邸での謹慎を命じられた。クレオメネスは幽閉されてしまったのだ。
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