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その後クレオメネス−下
幽閉されたクレオメネス、広大な屋敷の内とはいえ、日々鬱屈した生活を送っていた。
「王様、これはいつまで続くのでしょう?」
若き将パンテウスが、その肉体を持て余すかのような苛立ちを見せていった。
「分からぬ。が、余にやましいことは一点もない。いずれ解かれよう」
そこに老臣ヒッピダスが現れた。
「プトレマイオス殿がお越しになられました」
「おお、すぐに通せ」
プトレマイオス。四世王と同名の重臣の一人。近頃は、幽閉中のクレオメネスを訪れ、話し相手となっていた。
長身の男が颯爽と現れた。プトレマイオス王の寵臣でもある彼。
「おお、よくぞお越しくだされた」
「相変わらず英気溢れるご様子でなにより」
「とんでもない。鬱々としており申す。いい加減、これは何とかならぬものですかな」
「はは。陛下によくある一時の御不興に過ぎませぬ。心配要りませぬ」
しばらく世間話などした後に、クレオメネスは、いつものように、自身に四世王に対する悪意など一切ないこと、むしろ先王に対する恩から、王家へ篤い尊崇の念を抱いていることを強く訴えた。
「それゆえ、一日も早い赦免をお願いしたいのです」
「分かりました。私からも、陛下によいように申し上げましょう」
「よろしくお願いいたします」
プトレマイオスは退出した。
が、テーブルの上に、宝玉のちりばめられた腕輪が忘れられていた。
「お、忘れ物をされたようだな」
「私が届けましょう」
パンテウスが小走りに出て行った。
が、なにゆえか、彼は血相を変えて戻ってきた。
「王様!」
声を殺して叫んだ。
「どうしたのだ。そんな色をなして」
「こちらに!急いで!」
クレオメネスは、パンテウスに導かれるまま、とある小部屋に入った。
「なんなのだ一体」
「シーっ」
パンテウスは口に人差し指を当てた。
そこは、外の庭にある兵の屯所のそばにあった。すると、外でひそひそ交わされる言葉が聞こえてきた。
『お前たちは何をぼんやりしておるのだ』
その声はプトレマイオスのものに違いない。どうやら、幽閉するクレオメネスを監視している兵の指揮官を叱り付けていたようだ。
『…されど、幽閉の身とはいえ、クレオメネス殿は先王の信任も厚かった御方。それゆえ、あまりに厳しい監視はいかがなものかと思い…』
『馬鹿者』
『は』
『やつは、いうなれば手負いの獅子の如きもの。手に負えぬ野獣ぞ。その野獣の監視にこれでは緩すぎる。もっと兵を増やし、昼夜問わず厳しく監視するのだ』
『それは陛下の…』
『勿論、陛下の御心ぞ。やつはギリシアの傭兵どもを信服させている。うかつに処断して、傭兵どもの暴動や、弟君マガース殿の叛乱を誘発しては一大事だからの。それゆえ今は誅することはできぬ。しかるべき時を待っておるのだ』
それからも、なおプトレマイオスの小言は続いた。
そこには、王室とそれを取り巻く人々の本音があからさまにされていた。
クレオメネスの表情は、紙のように白くなった。彼は、すっとその小部屋から出て行った。
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