新しいギリシア・ローマの物語2

179年、暴君フィリッポス、悪業の報いを存分に被り、死去

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 新天地へ 
 季節は過ぎて紀元前237年秋。
 カルタゴの街は、ようやく平穏を取り戻していた。
 港には、船が所狭しと碇泊し、海外の物産を山と積み下ろし、他方、大陸でとれた物産をどしどし積み込み、帆を張って滑り出していく。
 当然、市場には物が溢れ、活況を呈し始めていた。
 ここが商人の国であること、それを思い出したかのように、カルタゴは急激に復興し始めていた。
 そんな中、一台の馬車ががらがらと通っていく。
 何分、カルタゴの街路は窮屈だ。人々は、うんざりした視線を遣った。
 フェニキア人は、伝統的にこういう街づくりを好む。要害の狭い土地に街を設計するのだ。陸から少し離れた小島や、岬の上やらに好んで都市を建設した。テュロスやベリュトス(現ベイルート)などである。
 現に、このカルタゴも岬の上に建設された都市だ。
 だから、道は狭く細い。荷物を担いで行き交うにも一苦労だ。


「ち、馬車か。こんな狭い道を…」
「まったく邪魔だよな」
 日々の稼ぎに躍起の市民たちはあからさまに舌打ちした。
 が、人々は、その馬車に刻まれた紋章を見ると、驚き慌て道を開けた。そればかりか、敬意を表し、誰もがお辞儀をして見送っていく。
 バルカ家の馬車だ。
 車上にあるのは、当主のハミルカル、そして、彼の息子ハンニバル。


「父上、どこに行くのですか?」
 長男のハンニバルが訊いた。この時、九歳。
「バァルの神殿だ」
 バァル神は、嵐と慈雨の神。雷も司り、雷光を意味する家名バルカの由来でもある。従って、バルカ家にとっては氏神の如き存在である。
「何しに行くのですか?」
 少年は父の顔を見上げた。
「お願いをするためだ」
「何をお願いするのですか?」
 少年は、子どもらしく何でも聞きたがった。
「ふ」
 ハミルカルは微笑み、息子の頭を撫でた。
「神への願いは神の前で口にすること。人前でみだりに口にするものではない」
「なぜですか?」
「神が人の願いを軽んじないようにするためだ」
「ふーん」
 少年は今一つ腑に落ちないようだ。
「お前は、人が、ああだこうだと騒いでいる言葉を尊いものと思うか」
「いいえ」
「それと同じだ。大切な言葉は大切に扱うもの。大切な願いは大切な場所でこそ、口にするものなのだ。分かるか、ハンニバル」
 ハミルカルは、いつも子どもたちに真剣に相対した。だから、子どもたちも、父親を真剣に見詰めるのが常であった。
「分かりました、父上」
「よし、えらいぞ」
 父は子の頭をぐいぐい撫でてやった。ハンニバルは嬉しそうだった。


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