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新天地へ(さらに続き)
「そのために、今のうちから力をつけねばならぬ」
「どこへ…父上はどこへ向かうおつもりですか?」
「イベリアへ向かう」
「イベリアに…」
「我が国は多くの土地を失った。また、内乱で大陸の領土も荒廃した。新しい土地が必要だ。実り豊かな大地を獲得せねばならぬ」
ハミルカルは、少年に過ぎない自身の息子に、あたかも僚友の将官の如く語りかけていく。それが彼なのだ。ハミルカルという将の真面目なのだ。
「わたくしも参ります」
「行きたいか」
「はい。是非とも父上と一緒に参りたいと思います」
「ならば誓うがよい」
「はい。何を…」
「ローマを敵とすることを。生涯の敵とすることを、バァルの神に誓え」
「はい」
少年は素直に頷くと、犠牲に手を置いた。
そして、神の立像をきっと仰ぎ見た。
「私ハンニバルは、ローマ国家とローマ人を終生の敵とすることを誓います」
「それでよい」
ハミルカルは満足げに頷くと、少年の手を取った。
「行こうハンニバル。新たな天地へ。未来の約束された土地へ」
「はいっ」
親子は帰っていった。
この二人が、この神殿に現れることは、もうなかった。
数日後。ハミルカルは元老院で演説した。
疲弊したカルタゴ国家の復興には、新天地が必要なことを。そして、提案した。
「イベリア遠征軍を組織し、自分をその司令官として派遣してもらいたい」
議場はどよめいた。
ハンノン党からも驚きの声が漏れていた。彼らは警戒していたのだ。ハミルカルが、終戦の立役者として、市民の支持を背景に、一挙にカルタゴ政界の主導権を握ってしまうのではないか、と。
そう考えていた彼らからすれば、まことに好都合な話である。最大の政敵が、自らカルタゴ本国を放り出していくというのだ。従って、一致して賛成に回った。
ハミルカル党の議員も、はじめ驚いたが、彼らも賛成に回った。なんといっても、彼らは貿易を国家繁栄の生命線と考える商人たち。となると、常に海外の権益を確保しておかねばならない。シチリアとサルディニアを失った今、新たな権益が必要だ。
こうして、カルタゴ元老院は、イベリア遠征を決議し、その司令官として、ハミルカル・バルカを任命した。
紀元前237年秋。
カルタゴの港には、英雄ハミルカルの遠征隊を見送ろうと大勢の市民が詰めかけた。
新造なった軍船に、カルタゴの若者五千人が続々乗り込んでいく。彼らは、ハミルカルを熱烈に支持し、新天地を切り拓く志を共有する者たちだ。
全員の乗船が完了すると、ハミルカルは手を上げた。
「出航だ!」
碇をがらがら上げ、ばんと帆を張った。
船はゆるゆる進み出す。
「ハミルカル様!どうぞご達者で!」
「必ず、必ず、お戻りくださいっ!」
まるで親との別れの如くに、市民は涙を流し叫び続けた。
ハミルカルも感極まった。
「戻るとも!国家に繁栄をもたらす者として帰還しようぞ!」
手を大きく振って、祖国の大地に別れを告げた。
その彼の傍らには、少年ハンニバルが、やはり目を赤くして付き従っていた。
第二章カルタゴの章終り。第三章イベリアの章へ続く。
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